令和8年度「業務改善助成金」~新しい最低賃金より低い会社が、50円・70円・90円以上の賃上げと省力化投資をセットで行う場合に、設備投資費の一部を国が助成する制度~

区分内容
制度概要賃上げ(事業場内最低賃金の引き上げ)と生産性向上のための設備投資をセットで行う中小企業に対し、設備費用の一部を国が助成する制度。
対象事業場の判定申請時点の事業場内最低賃金が「令和7年度地域別最低賃金以上」かつ「令和8年度改定後地域別最低賃金未満」である事業場が対象。御社で一番低い時給の確認が最優先。
賃上げコース50円・70円・90円の3コース(従来の30円・45円等から変更)。賃上げ対象者は雇用保険被保険者に限る。
助成上限額と助成率助成額は「対象経費×助成率」と「助成上限額」の低い方。

・助成上限:賃上げ額・人数・規模で決定(30人未満・90円コース・10人以上特例で最大600万円)。

・助成率:引き上げ前の最低時給が1,050円未満は4/5、1,050円以上は3/4。
対象設備の要件生産性向上・労働能率の増進に資する設備が対象(洗車機、自動精算機、日報システム等)。単なる老朽更新は不可。申請書では作業時間の削減数値を明記する。PC・スマホ等は物価高騰等の特例事業者のみ対象。
申請・実施の注意点引上げ後の事後申請は不可。交付決定前の設備発注・購入は助成対象外。

・申請期間:2026年9月1日〜各都道府県の最低賃金発効日前日または11月30日の早い方。

・事業完了期限:原則交付決定年度の1月31日(納品・支払・賃上げを完了すること)。
判定の手順現在の最低時給の確認 → 改定後最低賃金未満かの判定 → 雇用保険被保険者かの確認 → コース(50/70/90円)と人数の決定 → 助成上限の試算 → 削減時間と設備の選定 → スケジュールの確認。
令和8年度の主な変更点・対象範囲:改定後地域別最低賃金未満へ拡大

・コース:50円・70円・90円に再編

・助成率4/5の境界:1,050円未満に変更

・申請開始:2026年9月1日/事業完了:原則1月31日

※2026年9月17日時点。厚生労働省の令和8年度公式資料で確認した内容です。制度改正が大きいため、令和7年度以前の資料と混同しないことが重要です。 (厚生労働省)

1.業務改善助成金とは

業務改善助成金は、

事業場内最低賃金を引き上げる中小企業・小規模事業者が、生産性向上のための設備・機械・システム等を導入した場合、その費用の一部を国が助成する制度

です。

考え方は非常にシンプルです。

賃上げ + 生産性向上のための設備投資 → 設備投資費の一部を助成

例えば、自動車整備会社が手洗い洗車を洗車機に変更して作業時間を短縮し、同時に従業員の最低時給を引き上げる、といったケースです。 (都道府県労働局所在地一覧)


2.【最重要】最初に「現在の最低時給」を確認する

令和8年度はここが非常に重要です。

申請時点の**事業場内最低賃金(その事業場で最も低い時間給)**が、

「令和7年度の地域別最低賃金以上」かつ「令和8年度の改定後地域別最低賃金未満」

である事業場が対象です。 (都道府県労働局所在地一覧)

判定の考え方

申請時点の事業場内最低賃金判定
令和7年度地域別最低賃金未満×
令和7年度地域別最低賃金以上↓
令和8年度改定後最低賃金未満○ 対象になり得る
令和8年度改定後最低賃金以上×

令和7年度までは「地域別最低賃金との差額50円以内」という考え方がありましたが、現在は令和8年度改定後地域別最低賃金未満まで対象範囲が拡大されています。 (都道府県労働局所在地一覧)

具体例

仮に、

  • 令和7年度最低賃金:1,057円
  • 令和8年度改定後最低賃金:1,120円

とします。

現在の最低時給対象判定
1,057円○
1,080円○
1,100円○
1,119円○
1,120円×
1,200円×

したがって、相談を受けたら設備を見る前に、**「御社で一番低い時給はいくらですか?」**を最初に確認するのが実務上のポイントです。


3.令和8年度は「50円・70円・90円」の3コース

令和8年度は従来の30円・45円・60円・90円から、

50円・70円・90円の3コース

に再編されました。さらに、賃上げ対象労働者は雇用保険被保険者となっています。 (厚生労働省)

コース必要な事業場内最低賃金引上げ額
50円コース50円以上
70円コース70円以上
90円コース90円以上

例えば現在1,100円なら、50円コースでは1,150円以上への引上げが必要です。


4.いくら助成されるのか

助成上限額は、①何円賃上げするか、②何人を引き上げるか、③事業場規模30人未満かによって変わります。 (厚生労働省)

事業場規模30人未満の場合

賃上げ人数50円コース70円コース90円コース
1人40万円50万円100万円
2~3人70万円100万円240万円
4~5人70万円130万円270万円
6~7人90万円180万円360万円
8人以上110万円230万円450万円
10人以上※130万円300万円600万円

※10人以上区分は特例事業者が対象です。 (厚生労働省)

小規模事業者では、90円コースの助成上限がかなり大きいことが分かります。

ただし、「上限600万円=600万円もらえる」という意味ではありません。次の助成率も掛かります。


5.助成率

令和8年度の助成率は次のとおりです。

引上げ前の事業場内最低賃金助成率
1,050円未満4/5
1,050円以上3/4

令和8年度から、この境目も1,000円から1,050円へ変更されています。 (厚生労働省)

例

対象経費400万円、助成率3/4なら、

400万円 × 3/4 = 300万円

です。

ただし、その会社のコース・人数による上限が240万円なら、実際の助成額は最大240万円です。

つまり、

「対象経費×助成率」と「助成上限額」の低い方

と考えると分かりやすいです。


6.どのような設備が対象になるのか

基本は**「生産性向上・労働能率の増進に資する設備投資等」**です。 (厚生労働省)

例えば次のような考え方です。

業種現状の問題設備投資例改善効果
自動車整備手洗いに時間洗車機洗車時間削減
スーパー精算に人手自動精算機レジ業務削減
水道工事日報を手入力・再入力日報管理システム入力時間削減
製造業加工に時間加工設備加工時間削減
飲食店注文業務に時間POS・注文システム接客時間削減
卸売・倉庫搬送を人手で実施搬送設備等搬送時間削減

大事なのは**「欲しい設備」ではなく「生産性を上げる設備」**として説明することです。


7.申請書では「時間削減」を数字にする

審査する側に分かりやすいのは、

現状 → 設備導入 → 時間削減 → 浮いた時間の活用 → 生産性向上

というストーリーです。

例えば洗車機なら、

現在:1台30分 × 1日10台 = 300分
↓
導入後:1台10分 × 10台 = 100分
↓
1日200分削減
↓
削減時間を整備・点検・接客へ振り向ける
↓
売上・付加価値向上+賃上げ

という説明にします。

単に**「洗車機を入れて効率化します」だけでは弱い**ということです。


8.パソコン等は原則何でも対象になるわけではない

パソコン、スマートフォン、タブレット等については注意が必要です。

通常は対象範囲に制約がありますが、物価高騰等要件に該当する特例事業者については、PC・スマートフォン・タブレット等の端末や周辺機器の新規導入も対象経費として拡充されています。 (厚生労働省)

したがって、

「パソコンを買いたいから業務改善助成金を使う」

ではなく、特例要件への該当性まで確認する必要があります。


9.物価高騰等の特例

原材料費などの高騰といった外部要因によって、申請前6か月間平均の利益率が前年同期と比較して3%ポイント以上低下している事業者は、物価高騰等要件の特例事業者となります。

該当すれば、通常より対象経費が拡大される場合があります。 (厚生労働省)


10.申請のタイミングが非常に重要

令和8年度の申請受付は、

2026年9月1日から

始まっています。

終了日は、

①その都道府県の令和8年度地域別最低賃金の発効日前日

または

②2026年11月30日

のいずれか早い日です。 (厚生労働省)

したがって、全国一律に「11月30日まで」と考えてはいけません。


11.賃上げするタイミングにも注意

令和8年度では、賃金引上げについても、

2026年9月1日~その都道府県の改定後地域別最低賃金発効日の前日

という期間があります。

また、令和8年度は引上げ後の事後申請は不可と労働局資料で案内されています。 (都道府県労働局所在地一覧)

したがって、

「とりあえず先に給料を上げて、後から助成金を申請しよう」

という進め方は避けるべきです。


12.設備も先に買わない

これも非常に重要です。

基本的には、

①申請 → ②交付決定 → ③設備発注・導入 → ④支払い → ⑤事業完了・実績報告 → ⑥助成金支給

という流れで考えます。

交付決定前に助成対象設備を発注・購入してしまうと、助成対象にならない可能性があるため、設備業者への発注時期を必ず管理します。


13.事業完了期限

令和8年度の事業完了期限は原則、

交付決定の属する年度の1月31日

です。

この日までに、

設備の納品・支払い・賃金引上げ

を完了する必要があります。

やむを得ない事情がある場合、事前に理由書等を提出して認められれば、3月31日まで延長される場合があります。 (厚生労働省)


14.経営者から相談を受けたときの判定手順

実務では、次の順番で確認すると効率的です。

  1. 中小企業・小規模事業者か
  2. 現在の事業場内最低賃金はいくらか
  3. 令和8年度改定後の地域別最低賃金未満か
  4. 賃上げ対象者は雇用保険被保険者か
  5. 50円・70円・90円のどのコースを使うか
  6. 何人引き上げるか
  7. 助成上限額はいくらになるか
  8. 導入設備が生産性向上につながるか
  9. 何時間削減できるか
  10. 申請・賃上げ・設備導入のスケジュールに間に合うか

特に②~⑤で対象外なら、設備の詳細検討に時間を使う必要がありません。


15.具体例① 自動車整備業

従業員8人の自動車整備会社が、手洗い洗車を洗車機に変更するとします。

投資額:1,200万円

現状30分かかる洗車が10分になれば、1台20分削減できます。

1日10台なら、

20分 × 10台 × 250日 = 年間約833時間削減

です。

この時間を車検・整備・顧客対応に振り向ければ、

省力化 → 受入台数増加 → 売上増加 → 賃上げ

という説明ができます。

ただし、1,200万円すべてが助成されるわけではなく、コース・賃上げ人数による上限額と助成率で助成額が決まります。


16.具体例② 水道工事業

現場の日報を紙で作成し、本社担当者がExcel・勤怠・原価管理へ再入力している会社が、日報管理システムを導入するとします。

現場入力 → 本社再入力 → 集計 → 原価計算

を、

現場入力 → 自動連携

へ変更します。

例えば18人について1人1日20分削減できれば、

20分 × 18人 × 250日 ≒ 年間1,500時間

の削減余地があります。

これは業務改善助成金で説明しやすい**「二重入力・転記作業の削減」**です。


17.具体例③ スーパー

20人程度の食品スーパーで、有人レジを精算機能付きPOSレジ・セルフ精算設備に変更するとします。

現金の受渡し、釣銭確認、レジ締めなどが削減されれば、

レジ要員削減 → 品出し・接客・売場改善へ人員を再配置

できます。

特にパート従業員が多い会社では、**「何人が賃上げ対象になるのか」「その人が雇用保険被保険者か」**を最初に確認することが重要です。


18.業務改善助成金が向いている企業

特に検討価値が高いのは、

「最低賃金に近い従業員がいて、機械・設備・システム導入によって明確に作業時間を減らせる会社」

です。

逆に、

  • すでに全員の時給が令和8年度改定後最低賃金以上
  • 生産性向上との関係が説明できない設備
  • 単なる老朽設備の更新
  • 申請前に設備を発注・購入済み

といったケースでは、業務改善助成金以外の制度を検討した方がよい場合があります。


19.令和8年度の重要変更点

最後に、令和7年度との違いを整理します。

項目令和8年度
対象事業場改定後地域別最低賃金未満
賃上げコース50円・70円・90円
賃上げ対象者雇用保険被保険者
助成率4/5の基準事業場内最低賃金1,050円未満
申請開始2026年9月1日
申請終了最低賃金発効日前日又は11/30の早い方
事業完了原則1月31日

令和8年度は制度変更が大きいため、古い30円・45円・60円コースの資料を使わないことが重要です。 (厚生労働省)

経営者への一言説明

「今の一番低い時給が、新しい最低賃金より低い会社が、50円・70円・90円以上の賃上げと省力化投資をセットで行う場合に、設備投資費の一部を国が助成する制度です。まず最低時給と賃上げ人数を確認しましょう。」

これが令和8年度の業務改善助成金を最も簡潔に説明する言い方です。

厚生労働省「業務改善助成金」公式ページ

なお、令和8年度の各都道府県の最低賃金改定額はすでに答申済みです。実際の相談では、会社所在地を入れて「現在時給→対象可否→50/70/90円コース→人数→助成上限→設備投資額→想定助成額」まで一気に判定するのが実用的です。 (厚生労働省)