借入返済能力を中心に、収益性や効率性を含めた経営分析です。
経営分析・重要指標
| カテゴリ | 指標名 | 計算式 | 目安(健全ライン) | 診断士の視点(チェックポイント) |
|---|---|---|---|---|
| 返済能力 | 債務償還年数 | 有利子負債 ÷ (経常利益 + 減価償却費) | 10年以内 | 最重要指標。 今の利益で何年で完済できるか。10年は「設備の寿命」と「銀行の格付け」の限界点。 |
| 借入規模 | 借入金月商倍率 | 有利子負債 ÷ 平均月商 | 3ヶ月以内 | 借金が「身の丈(売上規模)」に合っているか。6ヶ月を超えると、売上減少時に即座に資金繰りが破綻するリスク。 |
| 実態把握 | 実質自己資本比率 | (純資産 + 役員借入金) ÷ 総資産 | 20〜30%以上 | 負債の中の「役員借入金」を自己資本に振り替えて計算。表面上の債務超過に惑わされず、「本当の倒産耐性」を見る。 |
| 収益性 | 売上高経常利益率 | 経常利益 ÷ 売上高 | 4%以上 | そもそも返済の原資(利益)を生み出せているか。1%未満は、借金を返すために働いている「自転車操業」の疑い。 |
| 効率性 | 棚卸資産回転期間 | 在庫 ÷ 平均月商 | 1ヶ月以内 | 在庫が売れ残っていないか。ここが長いと、利益が出ていても「現金」が在庫に化けてしまい、借金が返せない。 |
| 安全性 | インタレスト・カバレッジ・レシオ | (営業利益+受取利息) ÷ 支払利息 | 10倍以上 | 利益で利息を何倍カバーできているか。1倍を切ると、本業の儲けで利息すら払えていない非常に危険な状態。 |
現場で行う「分析のステップ」
- 「実態」を出す: まず「役員借入金」をチェックし、自己資本比率を計算し直す(会社の真の体力を知る)。
- 「返済力」を見る: 「債務償還年数」と「月商倍率」を計算し、銀行から見て「追加融資ができる先か」を判断する。
- 「原因」を探す: 返済が苦しい場合、それが「粗利の低さ(収益性)」のせいか、「在庫の抱えすぎ(効率性)」のせいかを特定する。
- 「対策」を練る: 在庫を減らして現金を捻出するか、銀行にリスケ(返済猶予)を相談するかの方針を決める。
(参考)債務償還年数の基準が「10年以内」の理由
主に「融資の常識」と「設備の寿命」という2つの明確な理由があります。
1. 金融機関の「格付け」のデッドライン
銀行が企業を格付け(ランク付け)する際、「10年で返せない=返済能力が低い」と判断する明確な基準があるからです。
- 10年以内(正常先):利息も元金も予定通り返せるとみなされ、追加融資がスムーズに受けられます。
- 10年超〜20年以内(要注意先):返済はできているが、業績が悪化すると危ういと判断されます。新規の融資が通りにくくなり、金利が高くなる傾向があります。
- 20年超(破綻懸念先など):今の利益では一生かけても返せない(または事業継続が困難)とみなされ、いわゆる「貸し渋り」の状態になります。
2. 設備投資の「耐用年数(寿命)」との一致
多くの設備や機械、車両などの「法定耐用年数」がおおむね10年以内であることが多いためです。
- 理屈: 新しい機械を10年ローンで買った場合、その機械が壊れる(寿命が来る)までに、機械が生み出した利益でローンを完済しなければなりません。
- リスク: もし完済に15年かかるなら、機械が壊れて使えなくなった後も5年間借金だけが残ることになります。これでは次の新しい機械が買えず、事業が立ち行かなくなります。
3. 社会的・経済的な「不確実性」
10年以上先の未来は、どんな大企業でも予測が困難です。
- 10年一昔: 技術革新や市場の変化を考えると、「今のビジネスモデルで10年以上稼ぎ続けられる保証」はどこにもありません。
- リスク回避: そのため、銀行も経営者も「不確実な未来が来る前に、今の借金は一度リセット(完済)できる状態にしておく」のが経営の鉄則となっています。
まとめ
「10年」というのは、「銀行が安心してお金を貸せる限界」であり、「投資した設備が稼ぎ続けてくれる寿命」のデッドラインなのです。
(参考)借入金月商倍率 3倍
「今の売上高の3ヶ月分と同じ額の借金がある」という状態を指します。
銀行が「この会社の借金は重すぎないか?」を、利益(PL)ではなく規模感(売上)でパッと判断する際によく使われます。
具体例:C社(年商1.2億円のサービス業)
まず、計算の土台となる「平均月商」を出します。
- 年間売上高:1億2,000万円
- 平均月商:1億2,000万円 ÷ 12ヶ月 = 1,000万円 [1]
パターンA:月商倍率「3倍」の場合(健全の境界線)
- 借入金残高:3,000万円
- 判断:
- 3,000万円 ÷ 1,000万円 = 3.0倍
- 診断士の目: 「身の丈に合った借入です。売上の3ヶ月分くらいなら、何かあっても数ヶ月の売上でカバーできる範囲なので、銀行も追加融資を前向きに検討してくれます。」
パターンB:月商倍率「6倍」の場合(要注意)
- 借入金残高:6,000万円
- 判断:
- 6,000万円 ÷ 1,000万円 = 6.0倍
- 診断士の目: 「半年間、売上をすべて借金返済に充てないと返せない額です。かなり重いですね。売上が少しでも落ちると、途端に返済が苦しくなります。銀行の格付けも下がり始める水準です。」
なぜ「3倍」が目安なの?
- 現預金の保有バランス
多くの中小企業は、手元に「月商の1〜2ヶ月分」の現金を置いています。借入が3倍程度であれば、手元の現金と毎月の利益で、無理なく返済スケジュールを組めることが多いからです。 - 運転資金との関係
商売を回すために必要な「運転資金(在庫や売掛金)」は、だいたい月商の1〜2ヶ月分に収まることが一般的です。それを超える借入(3倍以上)は、設備投資などの「固定的な借入」であることを意味し、その返済は売上からではなく「利益」から出す必要があるため、ハードルが上がります。
業種による「合格ライン」の違い
3倍はあくまで全業種平均の目安です。
- 卸売業: 薄利多売なので、2倍以内が望ましい(3倍だと重い)。
- 製造業・建設業: 設備や材料費がかかるため、4倍程度までなら許容範囲。
- 不動産業: 物件を借金で買うため、10倍超でも正常とみなされることがある。

