事業成長のフレームワーク

事業成長のためには、現状の事業領域と新事業領域のギャップ(課題)を明確化し、具体的な改善策を立て、重要なものから計画に基づき実施します。その後、結果を評価し、改善策を見直して行くことがポイントです。

なお、事業ドメインは、企業が具体的に「どのような事業領域で勝負するのか」を指します。特定の市場や製品・サービス、ターゲット顧客を定義し、その範囲でどのように競争するかを明確にするものです。3要素(顧客像、ニーズ、強み)を明確にする必要があります。

基本的な考え方:現状を知り、目標を定め、計画的に実行する

事業成長のためには、まず「① 現状の自社」を客観的に把握し、「② 目指すべき理想の姿」を明確にします。そして、その間にある「③ ギャップ(課題)」を認識し、それを埋めるための「④ 具体的な改善策」を立てます。重要なのは、立てた計画を「⑤ 実行し、結果を確認し、改善し続ける」ことです。これは、よく言われるPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を回していくことに他なりません

ステップ1:自社の現在地を知る(現状分析)

まずは、自社の現状を正しく理解することから始めましょう。

  • 強みと弱みは何か? (SWOT分析):自社の技術力、顧客基盤、ブランド力などの「強み」と、人材不足、資金力、特定の取引先への依存などの「弱み」を洗い出します。
  • 儲かっているのか?資金繰りは大丈夫か? (財務分析)売上だけでなく、利益率やキャッシュフローなどを確認し、財務状況を把握します。
  • 業界での立ち位置は? (5フォース分析)競合他社、新規参入の脅威、代替品の存在、顧客や仕入先の交渉力などを分析し、自社を取り巻く競争環境を理解します。
  • 世の中の流れはどうなっているか? (PEST分析)政治、経済、社会、技術といった外部環境の変化が、自社にどのような影響を与えるかを考えます。
  • 自社の商品・サービスはどう位置づけられるか?(PPM分析):自社が提供する商品やサービスを「市場成長率」と「自社の市場シェア」の2軸で評価(花形、金のなる木、問題児、負け犬)することで、資源配分や今後の戦略を明確にします。

<事例:地域密着のパン屋さんA> A店は、昔ながらの製法が地元で人気ですが、最近売上が伸び悩んでいます。分析してみると、「強み」は固定客とパンの味「弱み」は若者向けの商品がないこと、SNSなどでの情報発信ができていないことでした。近隣にコンビニが増え、競争が激化していることも分かりました。また、「クロワッサン」は若者を中心に人気が出ており「花形」、「フルーツサンド」は話題性はあるが売上が不安定な「問題児」、「変わり種ベーグル」は売れ残りが多く「負け犬」ということも分かりました。

ステップ2:目指す未来を描く(あるべき姿)

次に、将来どのような会社になりたいのか、どんな事業を展開したいのか、具体的な目標を設定します。

  • 会社の理念は?:経営の軸となる理念を再確認します。
  • 他社との違いは? (ブランド化・差別化):自社の商品やサービスを、どう特徴づけ、顧客に選ばれる存在になるかを考えます。
  • 顧客は何を求めているか? (顧客ニーズ):顧客の声に耳を傾け、本当に求められている価値を提供できているかを確認します。
  • 新しい市場や商品に進出すべきか? (アンゾフ成長マトリクス):以上の検討を踏まえ、既存市場・商品でシェアを拡大(先ずは、これが最初の取り組みです。)するのか、新しい市場を開拓するのか、新商品を投入するのかなどを検討します。

<事例:地域密着のパン屋さんA> A店は、「健康志向の顧客を取り込み、カフェスペースも併設して地域コミュニティの拠点となる」という目標を立てました。そのために、クロワッサンへの広告投資強化や、ベーグルの販売縮小、地元野菜を使った健康パンを開発し、若者にもアピールできる店構えに改装することを考えました。

ステップ3:理想と現実のギャップを知る(課題の明確化)

現状と理想の姿が明確になれば、その間にある「ギャップ=課題」が見えてきます

  • 目標達成のために、何を乗り越える必要があるか? (CSF抽出)目標達成に不可欠な重要成功要因(CSF)を特定し、現状で不足している点を課題として認識します。

<事例:地域密着のパン屋さんA> A店の課題は、「商品力強化」「新商品開発力」「商品の「SNSでの情報発信力」「店舗改装のための資金」が不足していることでした。

ステップ4:課題解決への道筋をつくる(改善策の立案)

洗い出した課題を解決するための具体的な行動計画を立てます。様々な角度からの改善策が考えられます。

  • 財務改善:コスト削減、価格見直し、資金調達計画など。
  • 売上向上:商品力強化、販路拡大、新商品開発、マーケティング強化など。
  • 組織力強化:人材育成、働きがいのある環境づくり、採用活動など。
  • 業務効率化:生産プロセスの見直し、ITツールの導入など。
  • リスク管理:コンプライアンス体制、情報セキュリティ対策、事業継続計画(BCP)など。

<事例:地域密着のパン屋さんA> A店は、以下の改善策を立てました。

  1. 品揃えの定期的な見直しとお客様の声等も参考に商品の改善を行う。
  2. 地元農家と連携し、野菜を使ったパンを開発する。
  3. SNSが得意な若者の力を借り、情報発信を強化する。
  4. 改装資金のため、補助金やクラウドファンディングの活用を検討する。

ステップ5:実行し、振り返り、改善する(チェック・アクション)

計画を実行に移し、その結果を定期的にチェックして、計画通りに進んでいるか、効果が出ているかを確認します。思うような結果が出ていなければ、その原因を探り、計画を修正します。

  • 計画の見える化具体的な行動計画と目標数値を、月別・日別などで設定します。
  • 進捗の見える化:売上、資金繰り、営業活動などの状況を、定期的に把握できる仕組みを作ります。
  • 評価と改善:計画の進捗状況や結果を評価し、必要に応じて改善策を見直します。

<事例:地域密着のパン屋さんA> A店は、既存商品の売上目標及び新商品の売上目標とSNSのフォロワー数目標を設定。毎週のミーティングで進捗を確認し、売れ行きの悪いパンは改良したり、SNSの投稿内容を見直したりしながら、目標達成に向けて活動を継続しています。


まとめ

事業成長は、一朝一夕に達成できるものではありません。以上のプロセス、すなわち「現状分析 → あるべき姿の設定 → 課題の明確化 → 改善策の立案 → 実行・評価・改善」というサイクルを地道に回し続けることが、持続的な成長への鍵となります。

ぜひ、このフレームワークを参考に、自社の状況に合わせた具体的な計画を立て、一歩ずつ着実に実行してみてください。

事例

以下は、例としてパン屋さんの現状分析と課題、展望を踏まえたフレームワークに沿ったまとめです。

1. 基本情報

  • 企業名・業種・業態:パン屋(個人経営)
  • 設立・事業歴:1956年創業、2代目経営
  • 従業員数・売上規模
    • 代表者(2代目)、奥さん、パート3名
    • 2024年度売上:2,000万円
    • 営業益:100万円
    • 平均購入単価:500円
  • 主力事業・商品・サービス:伝統の香ばしいパン、惣菜パン
  • 主要な顧客層・市場:地元住民、近隣利用者
  • 地域展開状況:過疎化・人口減少地域、地域密着型

2. 現状分析

  • 企業理念・ビジョン・社会的価値
    • 先代から受け継ぐ伝統の味と製法
    • 地域に愛される安心・安全なパンづくり
  • 強み(オンリーワン・ナンバーワン・保有強み)
    • 香ばしいパンや惣菜パンなど、地元で根強い人気を持つ独自商品
    • 長年の信頼と顧客との密な関係
    • 家族経営ならではのきめ細やかなサービス
  • 既存事業の課題・限界
    • 過疎化・人口減少による売上低迷
    • 若年層や新規顧客の獲得が難しい
    • デジタル活用やマーケティング力の不足
  • 市場環境の変化・競合状況
    • 人口減少に伴い市場規模が縮小傾向
    • コンビニやスーパーなど他業態との競合
    • 原材料費高騰や人手不足
  • 経営資源(人材・技術・資金・設備)
    • 家族・パートによる小規模運営
    • 伝統技術の継承
    • 資金力・設備は限定的

3. 目指す未来(あるべき姿)

  • 理念の再確認
    • 地域に根ざし、世代を超えて愛されるパン屋へ
  • 成長戦略(アンゾフ成長マトリクス)
    • 既存市場でシェア拡大(リピーター増加、新規顧客獲得)
    • 新市場・新商品への展開(若年層向け、健康志向、デリバリー・イートイン)
  • ブランド化・差別化
    • 伝統と革新を融合した商品開発
    • 地元食材活用や季節限定商品、コラボ商品の展開
  • 顧客ニーズの把握
    • 健康志向、インスタ映え、利便性(デリバリー・イートイン)への対応

4. ギャップ(課題)の明確化

  • 現状と理想のギャップ
    • 人口減少による顧客基盤の縮小
    • 新規顧客・若年層へのアプローチ不足
    • デジタル活用・マーケティング力の弱さ
    • 原材料費高騰・人手不足
  • CSF(重要成功要因)
    • 新規顧客獲得・リピーター増加
    • デジタルマーケティングとSNS活用
    • 商品開発力・サービス多様化
    • コスト管理・業務効率化

5. 改善策の立案

  • 財務改善
    • 原材料の共同仕入れや地元農家との提携でコスト削減3
    • 売れ筋商品の生産量最適化(ロス削減)9
  • 売上向上
    • 新商品開発(健康パン、スイーツパン、インスタ映え商品)
    • デリバリー・イートインサービスの導入
    • SNS・ホームページ活用による情報発信
  • 組織力強化
    • パート従業員のスキルアップ・定着支援
    • 若手の採用・育成
  • 業務効率化
    • 冷凍パン生地の活用による生産効率化2
    • デジタル決済・POSシステム導入
  • リスク管理
    • 原材料価格変動リスクへの対応
    • 事業継続計画(BCP)策定

6. 実行・評価・改善

  • 計画の見える化・KPI設定例
    • 新商品売上目標:月5万円(半年後10万円)
    • SNSフォロワー数:現状0→3ヶ月後500名
    • デリバリー利用件数:月20件(半年後50件)
    • イートイン客単価:現状500円→600円
  • 進捗の見える化
    • 週次・月次での売上・来客数・新商品売上管理
    • SNS投稿数・フォロワー数推移の把握
  • 評価と改善
    • 毎月の進捗確認とPDCAサイクルの運用
    • 顧客アンケートや声の収集による商品・サービス改善

7. まとめ

過疎化や人口減少という大きな課題を抱えつつも、伝統の味と地域密着型の強みを活かし、デジタル活用や新商品開発、サービス多様化を通じて新たな顧客層を開拓することが重要です。
PDCAサイクルを回しながら、持続的な成長を目指しましょう