商品のファン作り~脳内物質(ドーパミン&セロトニン&ノルアドレナリン)~

【ファン化】=
【期待感(ドーパミン)次は良いことがあるかも】【納得感(セロトニン)自分で選んだのだから】【緊張感(ノルアドレナリン) 手に入らないかもしれない】  +【期待以上(感動品質)】

ファン(信者)を作るメカニズムについて解説します。


はじめに:なぜ「品質」だけではファンにならないのか?

多くの中小企業経営者は、「もっと良い商品を作れば」「もっとサービスを磨けば」ファンが増えると考えがちです。しかし、米モトローラ社などが研究した統計学(6シグマ)の知見によると、製品のミスをゼロに近づけ、品質を完璧にしても、顧客満足度は必ずしも上がらないという衝撃的な事実があります。

ファンとは、脳科学的に言えば一種の「依存状態」です。顧客を満足させることと、顧客をファンにすることは、脳内で使われる物質が全く異なります。


1. ファン化を司る「3つの脳内物質」の方程式

顧客の脳を刺激し、「あなたでなければダメだ」と思わせるには、以下の3つの物質を戦略的に分泌させる必要があります。

脳内物質の役割とビジネスへの応用

脳内物質役割感情の状態経営上のアプローチ
ドーパミン快楽・報酬「もっと欲しい!」ランダムな報酬、期待感の醸成
セロトニン幸福・安心「ここなら安心選択肢の提示、自己決定感
ノルアドレナリン刺激・緊張「今しかない!」限定性、希少性、適度なハードル

これら3つが組み合わさることで、単なる「利用者」が「ファン」へと変貌します。


2. 実践:ファンを生み出す3つのステップ

具体的な手法を解説します。

ステップ①:ランダム報酬(ドーパミンの分泌)

人間は、毎回必ずもらえる報酬よりも、「いつ、どのくらいの報酬がもらえるか分からない」という状況に最も強く依存します。これはギャンブルやソーシャルゲームのガチャと同じ仕組みです。

  • 中小企業の事例:
    • 飲食店: 毎回使える10%オフクーポンではなく、「3回に1回、店主の気まぐれで超豪華な裏メニューが出る」という仕組み。
    • ECサイト: 購入者に毎回同じおまけを付けるのではなく、時々「開けてびっくりするようなサプライズギフト」を同梱する。
    • 効果: 「次は良いことがあるかも」という期待感が、リピート率を劇的に高めます。

ステップ②:選択肢による幸福(セロトニンの分泌)

人間は、他人に押し付けられるよりも、「自分で選んだ」と感じる時に幸福を感じ、その対象に愛着を持ちます。

  • 中小企業の事例:
    • AKB48のモデル: 多くのメンバーから「自分の推し」を選べることで、ファンは幸福感を感じ、深く依存します。
    • サービス業: 「これがお勧めです」と1つだけ提示するのではなく、松竹梅の3コースや、5〜13個程度の選択肢から選ばせる。
    • 効果: 「自分で選んだのだから、ここは自分に合っている」という納得感(自己肯定感)が、ロイヤリティに繋がります。

ステップ③:限定性と緊張感(ノルアドレナリンの分泌)

適度な緊張や「手に入らないかもしれない」という気持ちは、手に入れた時の快楽を倍増させます。

  • 中小企業の事例:
    • 予約困難な店: 「いつでも行ける」店よりも、「12時ジャストに電話しないと取れない」店の方が、ファンの熱量は高くなります。
    • 限定販売: 「地域限定」「現品限り」などの制約をあえて設ける。
    • 効果: 心拍数が上がるような緊張感が、ブランドへの「執着」を生み出します。

3. 究極の差別化:斜め45度の驚き(エピソード記憶)

最も重要なキーワードが「斜め45度の驚き」です。これは、顧客が全く期待していない方向から、予想外のサービスを提供することを指します。

記憶に残る「エピソード記憶」の力

人間は日常のルーチンは忘れますが、「非日常の驚き」は一生忘れません。これを「エピソード記憶」と呼び、ブランディングの本質となります。

事例1:南アフリカのホテルのリンゴ

誰もリンゴが欲しいと言っていないのに、部屋にわざわざ「リンゴを切る機械」と「採れたてのリンゴ」が置いてある。この「なぜここにリンゴが?」という突っ込みたくなるような驚きが、強烈な記憶として残り、SNSでの拡散や再訪を生みます。

事例2:訴えられない外科医の共通点

医療ミスをしても訴えられる医者と、訴えられない医者がいます。その違いは「技術」ではなく「会話の時間」でした。訴えられない医者は、平均して3分ほど長く患者と世間話をしていました。患者は「この先生は私を人間として見てくれている」という期待以上の人間味に触れ、ファン(信頼関係)になっていたのです。


4. 中小企業が明日から取り組むべきアクション

大手企業がAIやシステムで効率化を進める今こそ、中小企業は「人間味」と「脳科学」を組み合わせた戦略が有効です。

  1. 「無駄な会話」を資産に変える: 効率化の名の下にカットしていた顧客との雑談を、あえて3分増やしてください。そこでの「人間としての繋がり」が、ミスすら許容されるファン化の第一歩です。
  2. 期待値を少しだけ「斜め」に超える: 品質を101点にする努力よりも、顧客が「えっ、なんでこんなことしてくれるの?」と笑ってしまうような、小さなサプライズ(リンゴの例)を1つだけ用意してください。
  3. ランダム性をシステムに組み込む: 顧客対応に「いつも通り」ではない遊び心を取り入れてください。

まとめ:ファン化は「設計」できる

信者やファンができる理由は、カリスマ性だけではありません。

  • 期待感(ドーパミン)次は良いことがあるかも
  • 納得感(セロトニン)自分で選んだのだから
  • 緊張感(ノルアドレナリン) 手に入らないかもしれない
     +  期待以上(感動品質)

これらを顧客体験の中に意図的に配置し、そこに「期待を裏切る人間味(驚き)」を加えることで、中小企業でもファンを抱える強い組織を作ることができます。

「情熱は敵である」という哲学者の言葉があるように、経営者は熱い想いを持つ一方で、一歩引いて「顧客の脳がどう動いているか」を冷徹に分析し、仕掛けていく勇気が必要です。