設備投資計画について

投資が成功するかどうかは、借りたお金でいかに事業を成長させ、生み出されるキャッシュフローで計画通りに返済していくかにかかっています。特に投資しない場合の状況を明確にすることで、投資がリスク(借入)に見合うだけの「リターン(利益・キャッシュフローの増加)」をもたらし、企業の将来をより安定・成長させるための戦略的な一歩であることを、経営者自身が理解することが必要です。

事例内容

ある中小製造業A社は、現在の生産設備が老朽化しており、増加する注文に対応しきれていません。また、最新設備を導入することで、製造コストを削減し、製品の品質も向上させられると考えています。

借り入れ(借入) 目的:
最新の製造設備(一台 5,000万円)を導入し、生産能力を増強、製造コストを削減、製品品質を向上させる。

借入額:
5,000万円

借入条件:
金利: 年1.5% 返済期間: 7年(元利均等返済) 借り入れ理由: 自己資金だけでは設備投資が難しいため、金融機関から借入を行う。設備の導入が将来の収益増に繋がるという明確な見通しがある。年間返済額は約 740万円(元本約 740万円 + 利息、初年度の概算)

売上・利益拡大計画 借入金の使途:
借入金 5,000万円を全額、最新製造設備の購入資金に充当する。

効果:
・生産能力向上: 新設備により、製造リードタイムが短縮され、月間の生産可能量が20%増加する。これにより、これまで受注できなかった大口の注文に対応できるようになる。新規受注による売上増加は年間 1,000万円 (毎年200百万円増加)を見込む。なお、現在、既存事業の売上高は11,700万円です。(売上原価7,300百万円、販管費2,200百万円)
・製品品質向上: より高精度な加工が可能になり、不良品率が低下するとともに、高付加価値製品の製造が可能になる。これにより、一部製品の販売単価を上げられる。年間売上増加は300万円(毎年100万円増加)を見込む。
・製造コスト削減: 最新設備の自動化・省エネルギー機能により、人件費や電気代などの製造コストが年間 400万円程度削減できる。

以下は「新規設備投資した場合 」vs 「既存事業継続した場合」を比較したものです。

1. 売上・利益計画の比較(5年間)

※単位:万円

1-1. 新規設備投資の場合の売上・利益計画

項目1年目2年目3年目4年目5年目5年間合計
売上高13,00013,30013,60013,90014,20068,000
 既存事業売上11,70011,70011,70011,70011,70058,500
 新規受注による増加1,0001,2001,4001,6001,8007,000
 単価向上による増加3004005006007002,500
売上原価7,8007,9808,1608,3408,52040,800
 材料費3,9003,9904,0804,1704,26020,400
 労務費2,0802,1302,1802,2302,28010,900
 製造経費1,8201,8601,9001,9401,9809,500
 (うち減価償却費)(720)(720)(720)(720)(720)(3,600)
 (うち電力・水道費)(400)(410)(420)(430)(440)(2,100)
 (うちその他経費)(700)(730)(760)(790)(820)(3,800)
売上総利益5,2005,3205,4405,5605,68027,200
販管費2,2002,2002,2002,2002,20011,000
営業利益3,0003,1203,2403,3603,48016,200
支払利息7564534230264
税引前利益2,9253,0563,1873,3183,45015,936
法人税等8789179569951,0354,781
当期純利益2,0472,1392,2312,3232,41511,155

1-2. 既存事業継続の場合の売上・利益計画

項目1年目2年目3年目4年目5年目5年間合計
売上高11,70011,70011,70011,70011,70058,500
 既存事業売上11,70011,70011,70011,70011,70058,500
売上原価7,3007,3007,3007,3007,30036,500
 材料費3,6503,6503,6503,6503,65018,250
 労務費2,2002,2002,2002,2002,20011,000
 製造経費1,4501,4501,4501,4501,4507,250
 (うち減価償却費)(220)(220)(220)(220)(220)(1,100)
 (うち電力・水道費)(530)(530)(530)(530)(530)(2,650)
 (うちその他経費)(700)(700)(700)(700)(700)(3,500)
売上総利益4,4004,4004,4004,4004,40022,000
販管費2,2002,2002,2002,2002,20011,000
営業利益2,2002,2002,2002,2002,20011,000
支払利息000000
税引前利益2,2002,2002,2002,2002,20011,000
法人税等6606606606606603,300
当期純利益1,5401,5401,5401,5401,5407,700

1-3. 新規設備投資と既存事業継続の差額

項目1年目2年目3年目4年目5年目5年間合計
売上高差額1,3001,6001,9002,2002,5009,500
 新規受注による増加1,0001,2001,4001,6001,8007,000
 単価向上による増加3004005006007002,500
売上原価差額5006808601,0401,2204,300
 材料費差額2503404305206102,150
 労務費差額-120-70-203080-100
 製造経費差額3704104504905302,250
 (うち減価償却費差額)(500)(500)(500)(500)(500)(2,500)
 (うち電力・水道費差額)(-130)(-120)(-110)(-100)(-90)(-550)
 (うちその他経費差額)(0)(30)(60)(90)(120)(300)
売上総利益差額8009201,0401,1601,2805,200
当期純利益差額5075996917838753,455

2. 資金繰り計画の比較(5年間)

※単位:万円

2-1. 新規設備投資の場合の資金繰り計画

項目1年目2年目3年目4年目5年目5年間合計
期首現金残高3,0003,9475,0016,1477,3853,000
営業CF2,6872,7792,8712,9633,05514,355
 当期純利益2,0472,1392,2312,3232,41511,155
 減価償却費7207207207207203,600
 売上債権増減-130-30-30-30-30-250
 棚卸資産増減-50-50-50-50-50-250
 仕入債務増減1000000100
投資CF-5,0000000-5,000
財務CF3,260-725-725-725-725360
(うち借入金)5,00000005,000
(うち返済額)-740-725-725-725-725-3,640
(うち配当金)-1,000-1,000-1,000-1,000-1,000-5,000
期末現金残高3,9475,0016,1477,3858,7158,715

2-2. 既存事業継続の場合の資金繰り計画

項目1年目2年目3年目4年目5年目5年間合計
期首現金残高3,0004,0405,0806,1207,1603,000
営業CF2,0402,0402,0402,0402,04010,200
 当期純利益1,5401,5401,5401,5401,5407,700
 減価償却費2202202202202201,100
 売上債権増減000000
 棚卸資産増減000000
 仕入債務増減2802802802802801,400
投資CF000000
財務CF-1,000-1,000-1,000-1,000-1,000-5,000
(うち借入金)000000
(うち返済額)000000
(うち配当金)-1,000-1,000-1,000-1,000-1,000-5,000
期末現金残高4,0405,0806,1207,1608,2008,200

2-3. 新規設備投資と既存事業継続の差額

項目1年目2年目3年目4年目5年目5年間合計
期首現金残高差額0-93-79272250
営業CF差額6477398319231,0154,155
 当期純利益差額5075996917838753,455
 減価償却費差額5005005005005002,500
 売上債権増減差額-130-30-30-30-30-250
 棚卸資産増減差額-50-50-50-50-50-250
 仕入債務増減差額-180-280-280-280-280-1,300
投資CF差額-5,0000000-5,000
財務CF差額4,2602752752752755,360
期末現金残高差額-93-7927225515515

3. 借入金返済スケジュール

※単位:万円

年度期首残高返済額(うち元本)(うち利息)期末残高
1年目5,000740665754,335
2年目4,335740676643,659
3年目3,659740687532,972
4年目2,972740698422,274
5年目2,274740710301,564
6年目1,56474072123843
7年目843856843130
合計5,2965,000296

4. 設備投資の効果分析

収益性分析

  • 投資回収期間: 約3年3ヶ月(累積キャッシュフローがプラスに転じる時点)
  • ROI(投資収益率): 5年間累計で69.1%(当期純利益差額合計3,455万円÷投資額5,000万円)
  • IRR(内部収益率): 約15.3%

投資判断の根拠

  1. 生産能力の向上:
    • 製造リードタイム短縮による月間生産可能量20%増加
    • 大口受注への対応が可能になり、年間1,000万円の売上増加
  2. コスト効率の改善:
    • 自動化・省エネルギー機能による製造コスト年間400万円削減
    • 不良品率低下による原価率の改善
  3. 製品価値の向上:
    • 製品品質向上による高付加価値製品の製造実現
    • 一部製品の販売単価アップによる年間300万円の売上増加
  4. 市場競争力の強化:
    • 納期短縮による顧客満足度向上
    • 品質向上による市場シェア拡大の可能性

5. リスク分析と対策

想定されるリスク

  1. 市場環境の変化:
    • 需要減少や競争激化によって売上計画が達成できないリスク
    • 対策: 営業強化新規顧客開拓製品ラインナップの多様化
  2. 資金繰りの悪化:
    • 売上高が計画に達しない場合の資金ショート
    • 対策: 融資枠の確保、運転資金の積み増し、支出の見直し
  3. 技術的な課題:
    • 新設備導入に伴う生産調整期間の発生
    • 対策: 事前の従業員教育、段階的な設備入れ替え
  4. 返済負担の増大:
    • 収益が計画を下回った場合の返済原資不足
    • 対策: 返済資金の一部前倒し積立、条件変更の可能性検討

6. 結論と提言

分析結果

  • 借入による設備投資は5年間で3,455万円の純利益増加が見込める
  • 資金繰りは3年目以降、既存事業継続よりも有利になる
  • 設備投資による生産性向上と品質改善は、長期的な競争力強化に貢献

投資判断

新規設備投資は以下の理由から推奨される:

  1. 収益性の大幅な向上(5年間で約3,455万円の純利益増加
  2. 将来的な競争力の強化(生産性・品質の向上
  3. 7年間の借入期間内での完済が十分に可能
  4. 初期の資金流出を考慮しても、長期的には資金状況が改善

実行上の留意点

  1. 設備導入初期の売上立ち上がりに注意し、柔軟な対応を準備する
  2. 毎月の資金繰り管理を徹底し、キャッシュフロー状況を常に把握する
  3. 導入効果を定期的に測定・評価し、必要に応じて計画を修正する
  4. 余剰資金が発生した場合は、借入金の繰上返済も検討する