業績=経営理念×商品×仕組み

基本的な考え方

業績は単なる足し算ではなく、掛け算である」という重要な経営原則を表しています。つまり、どれか一つの要素が0点であれば、全体の成果も0になってしまうということです。

3つの要素と具体例

1. 経営理念 – 「なぜ」事業を行うのか

経営理念は会社の羅針盤です。明確な理念がなければ、方向性が定まらず、社員のモチベーションも上がりません

具体例:

  • アップルの「Think Different」は単なるスローガンではなく、革新的な製品開発の原動力となりました
  • パタゴニアの「環境に害を与えない」という理念は、製品開発から販売方法まで一貫して貫かれ、ファンの信頼を獲得しています

2. 商品 – 「何を」提供するのか

顧客に提供する価値そのものです。どれだけ素晴らしい理念があっても、魅力的な商品・サービスがなければ売上は立ちません

具体例:

  • トヨタのカイゼン活動は優れた理念ですが、それを車という具体的な商品に反映させることで初めて価値を生みます
  • ソニーがウォークマンを開発した時、「いつでもどこでも音楽を」という価値提案が明確だったからこそ成功しました

3. 仕組み – 「どうやって」実現するのか

販売方法や生産体制など、理念と商品を市場に届けるための実行手段です。

具体例:

  • アマゾンは「顧客第一主義」という理念と多様な商品を、徹底した物流システムという仕組みで支えています
  • セブン-イレブンは「顧客ニーズに応える品揃え」を、POSシステムによる徹底した在庫管理の仕組みで実現しています

掛け算の効果とその重要性

経営において、この3つの要素はバランスよく強化することが極めて重要です。

例えば、松下幸之助氏は経営理念として「水道哲学」(電気製品を水道の水のように安価に提供する)を掲げ、それに合った商品開発と、販売店網という仕組みを構築したからこそ、パナソニックは大きく成長しました。

一方で、優れた技術(商品)を持ちながらも、最終的に事業売却に至った例は多いです。これは市場の変化に合わせた「仕組み」の変革が追いつかなかったことが一因と言えます。

実践のステップ

  1. まず自社の経営理念を再確認し、全社員と共有する
  2. その理念を体現する商品・サービスを見直す
  3. 商品を効果的に提供するための仕組みを最適化する
  4. 3つの要素のバランスを定期的に評価する

この3つの要素がバランスよく機能すれば、業績は自ずと向上していくでしょう。重要なのは、どれか一つだけを突出して強化するのではなく、3つの要素を掛け合わせることで相乗効果を生み出すという考え方です。

中小企業の場合も、この考え方は当てはまります。

3つの要素と中小企業向け具体例

1. 経営理念 – 「なぜ」事業を行うのか

経営理念は会社の方向性を示す羅針盤です。特に中小企業では、経営者の想いが直接反映されやすい強みがあります。

中小企業の例:

  • 地元の菓子製造業「匠堂」の「地域の食文化を守り、新しい世代に伝える」という理念が、商品開発の指針となっている
  • 町の印刷会社「クリエイト印刷」の「お客様の情報発信を最高の形で表現する」という理念が、単なる印刷屋を超えたサービス提供につながっている

2. 商品 – 「何を」提供するのか

顧客に提供する価値そのものです。中小企業は特定分野に特化した商品・サービスで差別化できる強みがあります。

中小企業の例:

  • 町の自転車店「サイクルプロ」は大手量販店と差別化するため、一人ひとりに合わせた自転車フィッティングという商品価値を提供している
  • 地域密着型の介護サービス「あんしん介護」は、利用者の家族も含めたケアプランという独自の商品価値を生み出している

3. 仕組み – 「どうやって」実現するのか

限られた経営資源の中で効率的に運営するための仕組みづくりが中小企業では特に重要です。

中小企業の例:

  • 町の洋食レストラン「グリルマスター」は、シェフの腕前(商品)を活かすため、予約制と少数精鋭の社員教育という仕組みで高品質を維持している
  • 地域の工務店「匠建築」は、大手ハウスメーカーと差別化するため、施主との直接対話を重視した設計プロセスという仕組みを構築している

掛け算の効果と中小企業での重要性

成功イメージ

町の金物屋「ツールボックス」の例:

  • 経営理念:「職人の技を支える最高の道具を提供する」
  • 商品:専門性の高い工具と使い方のアドバイス
  • 仕組み:職人顧客とのネットワーク構築と定期的な技術セミナー開催

この3つが掛け合わさることで、大型ホームセンターにはない独自のポジションを確立し、安定した顧客基盤を築いています。

失敗イメージ

地元の文房具店「ペーパーワールド」の例:

  • 経営理念:「地域の文化活動を支える」(明確だが実行が不十分
  • 商品:一般的な文房具(差別化不足)
  • 仕組み:従来型の店舗販売のみ(変化への対応遅れ)

理念は素晴らしくても、差別化された商品や時代に合った仕組みがなければ、大手量販店やネット通販に顧客を奪われてしまいます。

中小企業での実践ステップ

  1. 御社の経営理念を紙に書き出し、社員全員と共有する(半日ワークショップがおすすめ)
  2. その理念を体現する独自の商品・サービスを3つリストアップする
  3. 限られた経営資源の中でも実行できる効率的な仕組みを考える
  4. 四半期ごとに3つの要素のバランスを評価する時間を設ける

中小企業の強みは、経営者の想いが直接事業に反映できる点と、変化への素早い対応力です。この3つの要素をバランスよく進化させることで、大企業にはない独自の価値を生み出し、持続的な成長につなげることができるでしょう。