日本政策金融公庫の創業計画書作成

項目主な内容・構成要素審査のチェックポイント具体的な記載例・対策
1. 創業の動機必然性・実現可能性・返済能力の3視点なぜ「あなた」が「今」やるのか10年の経験+人口統計データによるニーズの裏付け
2. 経営者の略歴職歴、成果、マネジメント経験、資格事業を成功させる能力があるか単なる勤務歴ではなく「売上〇%向上」等の具体的数値
3. 商品・サービス内容、価格、競合との差別化要素市場の空白を突き、選ばれる理由があるか健康志向ターゲットに絞り、アレルギー表示や有機素材で差別化
4. 必要な資金と調達設備資金(見積ベース)+運転資金資金使途が明確で、自己資金の準備があるか見積書を必ず取得。自己資金は積立過程を隠さず提示
5. 事業の見通し売上予測(客単価×客数)、収支計画予測に根拠があり、利益から返済可能か競合調査に基づく回転率設定。利益から返済額を引いて余剰を示す
6. 面談対策想定問答、必要書類の準備自分の言葉で計画(数字)を説明できるかリスクへの代替案(テイクアウト強化等)を準備しておく
7. 失敗回避策根拠の強化、運転資金の確保計画が甘くないか、見せ金でないか最低3か月分の固定費を確保。コツコツ貯めた通帳を提示

はじめに:創業計画書は「融資を受けるための文書」である

創業計画書は単なる提出書類ではありません。あなたのビジネスの実現可能性を証明し、返済能力を担保する「説得の道具」です。2024年4月からは、自己資金要件が撤廃され返済期間も延長されましたが、だからこそ審査担当者は「本当にこの事業で返済できるのか」をより厳しく見ています。

本ガイドでは、飲食店開業を例に、融資担当者が納得する創業計画書の作り方を、具体的なステップで解説します。

(参考)
新規開業・スタートアップ支援資金:https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html
様式:https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_kokumin.html

第1章:創業計画書作成の全体像と準備

作成前に押さえるべき3つの視点

創業計画書で審査担当者が見ているのは次の3点です。

  1. 事業の必然性:なぜあなたがこの事業をやるのか
  2. 実現可能性:計画に無理がないか、根拠があるか
  3. 返済能力:利益から確実に返済できるか

これらを証明するには、感覚ではなく「数字」と「事実」で語る必要があります。

作成に必要な準備資料

計画書作成前に以下の情報を集めましょう。

  • 競合店の価格帯、客層、混雑状況(最低3店舗)
  • 商圏の人口統計データ(市区町村のWebサイトで入手可能)
  • 設備や内装の見積書(複数業者から取得)
  • 仕入先の価格表
  • 物件の賃貸条件(家賃、敷金、保証金)
  • 自分の通帳のコピー(過去6か月分)

これらは計画の「根拠」となり、面談で必ず問われます。

第2章:各項目の具体的な書き方

2-1. 創業の動機:ストーリーで必然性を示す

ここでは「なぜあなたが」「なぜこの事業を」「なぜ今」始めるのかを論理的に説明します。

良い例

「私は大手ベーカリーチェーンで10年間、商品開発と店舗運営を担当してきました。その中で、アレルギーを持つお客様から『安心して食べられるパンが少ない』という声を何度も聞きました。実際、私が住む○○駅周辺は30代ファミリー層が増加している(人口統計より2020年比15%増)にもかかわらず、オーガニック専門のベーカリーは存在しません。この地域ニーズと自分の経験を掛け合わせることで、必ず成功できると確信しています」

ポイント

  • 経験年数や具体的な業務内容を明記
  • 顧客ニーズを「聞いた話」だけでなく、可能なら数字で裏付ける
  • 市場の空白(競合がいないこと)を客観的データで示す

避けるべき表現

「パン作りが好きだから」「将来性があると思ったから」といった抽象的な理由は、事業への覚悟が感じられず評価されません。

2-2. 経営者の略歴:事業との関連性を強調

職歴をただ並べるのではなく、「この経験が事業にどう活きるか」を示します。

記載例

平成26年4月~令和6年3月(10年間) 株式会社○○ベーカリー

  • 商品開発部(5年):季節限定商品の企画・開発を担当。低糖質シリーズは前年比150%の売上を達成し、社内MVP受賞
  • △△店 副店長(5年):スタッフ管理、シフト作成、売上・在庫管理など店舗運営全般を統括。在任中に店舗売上を年平均8%向上

保有資格:製菓衛生師、食品衛生責任者

ポイント

  • 単なる「勤務」ではなく「成果」を数字で示す
  • マネジメント経験は経営能力の証拠になるので必ず記載
  • 関連する資格は全て列挙

2-3. 取扱商品・サービス:差別化を明確に

商品内容だけでなく、「なぜ選ばれるのか」を競合比較で示します。

記載例

【商品・サービス内容】

国産オーガニック素材を使用したパン、焼き菓子、オーガニックコーヒー

主力商品と価格:

  • 国産有機小麦の食パン 450円
  • 低糖質ふすまパン 250円
  • 季節野菜のフォカッチャ 350円
  • オーガニックコーヒー 500円

【競合との差別化】

商圏500m以内の競合2店舗(A店:大手チェーン、B店:個人経営の町のパン屋)はいずれも100~200円台の低価格帯商品が中心です。当店は価格競争を避け、「健康志向」「素材の安全性」で差別化します。

具体的には:

  • 全商品でアレルギー表示を徹底
  • 白砂糖不使用の焼き菓子ライン
  • 小麦粉は国産有機栽培品のみ使用

これにより、近隣に多い30代女性(商圏内推定3,000世帯)のうち、健康志向の強い層(約20%=600世帯)を主要顧客として獲得します。

ポイント

  • 競合の店名ではなく「業態」と「価格帯」で分類
  • 差別化要素を3つ程度に絞る
  • ターゲット顧客の規模を推計する(人口統計×想定シェア)

2-4. 必要な資金と調達方法:見積もりベースで積み上げる

この項目は最も厳しくチェックされます。概算ではなく、見積書に基づいた具体的な金額を記載します。

記載例

【必要な資金:合計1,150万円】

設備資金 800万円

  • 内装工事費 400万円(○○工務店見積)
  • 厨房設備 250万円(△△厨房機器見積)
  • 什器・備品 100万円(家具、食器、レジなど)
  • 看板・外装 50万円

運転資金 350万円

  • 仕入れ資金 100万円(2か月分)
  • 人件費 120万円(開業後3か月分)
  • 家賃 90万円(6か月分、月15万円)
  • その他経費 40万円(水道光熱費、通信費など)

【調達の方法】

自己資金 350万円(給与からの積立、退職金) 日本政策金融公庫からの借入 800万円

ポイント

  • 設備資金は必ず見積書を取得(面談で提示を求められる)
  • 運転資金は「売上ゼロでも何か月持つか」を意識(最低3か月分は確保)
  • 自己資金の出所を明確に(見せ金は絶対NG)

運転資金の考え方

飲食店の場合、軌道に乗るまで3~6か月かかるのが一般的です。その間の赤字を補填できる資金が必要です。

計算式:月間固定費×3~6か月分

月間固定費の例:

  • 家賃15万円
  • 人件費20万円
  • 水道光熱費3万円
  • 通信費・消耗品2万円   合計40万円×3か月=120万円

2-5. 事業の見通し(収支計画):最重要項目の攻略法

この項目が融資の成否を決めます。売上予測は「希望」ではなく「根拠」で示します。

売上予測の立て方(3ステップ)

ステップ1:客単価を設定する

メニューの価格帯から平均客単価を算出します。

例:パン3個(平均300円)+コーヒー(500円)=800円

ステップ2:客数を予測する

座席数、回転率、営業日数から計算します。

イートイン:10席×回転率2.5回転×25日=625人/月 テイクアウト:1日40人×25日=1,000人/月

回転率の根拠は競合店の観察調査で得ます。

ステップ3:売上高を計算する

イートイン:625人×800円=50万円 テイクアウト:1,000人×1,000円=100万円 月間売上合計:150万円

収支計画の記載例

【事業の見通し(月間)】

項目創業当初軌道に乗った後
売上高100万円150万円
売上原価30万円(30%)45万円(30%)
人件費20万円20万円
家賃15万円15万円
その他経費10万円10万円
利益25万円60万円

【売上高の算出根拠】

軌道に乗った後(開業6か月後を想定)

イートイン:客単価800円×10席×2.5回転×25日=50万円 テイクアウト:客単価1,000円×1日40人×25日=100万円 合計150万円

創業当初(開業~3か月)

認知度が低いため、上記の7割程度(100万円)を想定

【根拠の詳細】

  • 客単価:メニュー価格の平均値
  • 席数・回転率:近隣カフェ3店舗の観察調査(平日2回転、休日3回転の平均)
  • 来店客数:駅乗降客数(1日5,000人)の約1%が利用すると想定

この利益60万円から、融資返済(月9万円)と生活費(月25万円)を差し引いても、月26万円の余剰が生まれます。

ポイント

  • 売上予測は必ず「客単価×客数」で分解
  • 客数予測は商圏人口や通行量などの客観データから算出
  • 原価率は業界標準値を参考に(飲食店は通常30~35%)
  • 利益から返済額を引いて、プラスになることを示す

面談で必ず聞かれる質問への準備

「この客数の根拠は?」 →駅の乗降客数5,000人×来店率1%=50人/日

「回転率2.5回転の根拠は?」 →競合3店舗を各2回観察し、平均滞在時間45分、営業時間8時間から算出

「なぜ開業3か月で軌道に乗ると言えるのか?」 →一般的な飲食店の損益分岐到達期間(業界データ)、およびSNS・チラシでの事前告知計画

第3章:面談突破のための実践準備

面談で評価される3つのポイント

  1. 計画の理解度:自分で書いた数字を説明できるか
  2. 事業への本気度:情熱と覚悟が伝わるか
  3. 対応力:想定外の質問にも冷静に答えられるか

頻出質問と回答例

質問1:「売上予測が甘すぎませんか?」

回答例:「確かにリスクはあります。そのため創業当初は予測の7割(100万円)で計画しており、この売上でも固定費は賄えます。また、万が一売上が伸び悩んだ場合は、テイクアウト比率を上げてコストを抑える戦略も準備しています」

ポイント:リスクを認めた上で、対策を示す

質問2:「自己資金はどうやって貯めましたか?」

回答例:「過去3年間、毎月10万円ずつ給与から積み立て、退職金と合わせて350万円になりました。通帳をお持ちしましたのでご確認ください」

ポイント:計画性を示し、証拠を提示

質問3:「競合が同じ業態で出店したらどうしますか?」

回答例:「当店の強みは、私の10年の商品開発経験です。季節ごとの限定商品や、お客様の声を反映した商品改良を続けることで、後発の模倣を許さないファン層を作ります」

ポイント:自分にしかできない強みで差別化

面談で持参すべき資料

  • 創業計画書(完全に理解しておく)
  • 通帳のコピー(自己資金の証明)
  • 見積書(設備資金の根拠)
  • 商品サンプルや写真(可能なら)
  • 店舗の図面やレイアウト図
  • メニュー表の案

面談前日までにやるべきこと

  1. 創業計画書を音読し、全項目を自分の言葉で説明できるようにする
  2. 想定問答集を作り、パートナーや友人に面接官役をやってもらう
  3. 服装は清潔感のあるビジネスカジュアルを準備
  4. 当日の持ち物チェックリストを作成

第4章:よくある失敗と対策

失敗例1:売上予測が根拠なし

「月商200万円は達成できると思います」

これでは担当者は納得しません。必ず「客単価×客数」に分解し、客数の根拠(商圏人口、通行量など)を示してください。

失敗例2:競合分析が甘い

「近くに競合はありません」

本当に競合がないのか、それとも調査不足なのかを疑われます。必ず商圏内の同業態店を調査し、その上で差別化を説明してください。

失敗例3:運転資金が少なすぎる

開業直後は売上が予測を下回るのが普通です。最低でも3か月分の固定費を運転資金として確保しましょう。

失敗例4:自己資金の出所が不明瞭

直前に大金が入金されている通帳は「見せ金」を疑われます。コツコツ貯めた過程が分かる通帳を提示してください。

まとめ:融資を勝ち取るための5つのチェックリスト

  1. 創業動機に「あなただけの必然性」があるか
  2. 経験・スキルと事業内容が論理的につながっているか
  3. 売上予測に客観的な根拠があるか
  4. 利益から返済できることを数字で証明できているか
  5. 面談で全ての数字を自分の言葉で説明できるか

創業計画書は「融資を受けるための書類」ですが、同時に「自分の事業計画を客観視するツール」でもあります。この作成プロセスで事業の弱点が見えたら、開業前に修正できるチャンスです。

時間をかけて丁寧に作り込み、担当者が「この人なら成功する」と確信できる計画書を完成させてください。

記載例

(参考)その他参考様式