要旨
日本政府が提供する二つの主要な無料データ分析・可視化ツール、地域経済分析システム(RESAS)と地図で見る統計(jSTAT MAP)について説明する。これらのツールは、証拠に基づく政策立案(EBPM)や商圏分析、地域学習など、多岐にわたる分野でのデータ活用を推進するものである。新規出店の際や補助金申請時の市場分析にも活用できます。その他統計情報はこちらから。
jSTAT MAPは、総務省統計局が政府統計の総合窓口(e-Stat)の一部として提供するWebGIS(地理情報システム)である。国勢調査などの公的統計データを基に、利用者が目的に応じて独自の統計地図を作成・編集できる点が最大の特徴である。RESASが予め用意された分析結果の「閲覧」に重きを置くのに対し、jSTAT MAPはより詳細でカスタマイズ性の高い「地図作成」機能を提供する。
結論として、RESASはマクロな視点から地域の課題を発見するための強力なツールであり、jSTAT MAPは特定のテーマについて地理的な深掘り分析を行うための専門的なツールと位置づけられる。両者を目的に応じて使い分ける、あるいは連携させることで、より多角的で精度の高い地域分析が可能となる。
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1. 地域経済分析システム (RESAS)
RESASは、地域経済に関する官民の多様なビッグデータを収集・可視化し、地方創生の取り組みを支援することを目的としたシステムである。
1.1. 目的と提供主体
- 正式名称: 地域経済分析システム (Regional Economy Society Analyzing System)
- 提供主体: 経済産業省および内閣官房(まち・ひと・しごと創生本部事務局)
- 目的: 地域の現状・実態を正確に把握し、効果的な施策の立案・実行・検証を情報面から支援する。人口減少や過疎化といった構造的な課題に対し、データに基づいたアプローチを促進する。
1.2. 主要機能とデータカテゴリ
RESASは、主に8つの分析メニュー(マップ)から構成されており、それぞれが地図(ヒートマップ)、グラフ、リスト形式でデータを提供する。
| マップ分類 | 主な分析項目 |
| 人口マップ | 人口構成、人口増減、人口の自然・社会増減、新卒者就職・進学、将来人口推計 |
| 地域経済循環マップ | 地域経済循環図、生産・分配・支出分析 |
| 産業構造マップ | 全産業の構造、稼ぐ力分析、企業数、事業所数、製造品出荷額、農業産出額 |
| 企業活動マップ | 創業比率、黒字赤字企業比率、海外への企業進出動向、研究開発費比較 |
| 観光マップ | 目的地分析、宿泊者数、外国人訪問・滞在分析 |
| まちづくりマップ | From-to分析(滞在人口)、通勤通学人口、不動産取引 |
| 雇用/医療・福祉マップ | 一人当たり賃金、有効求人倍率、医療・介護需給 |
| 地方財政マップ | 自治体財政状況の比較、一人当たり地方税 |
特筆すべき機能:
- サマリー機能: 特定の地方公共団体を選択すると、その地域に関する様々なデータとグラフを集約したExcelファイルをダウンロードできる。地域の課題発見に有用である。
- データダウンロード: 表示されているデータをCSV形式でダウンロード可能(ただし、単位等が欠けている場合があるため注意が必要)。
- 画面キャプチャ: Google Chromeで閲覧時、表示画面をPNG形式の画像として保存できる。
1.3. 活用事例と対象者
RESASは、その使いやすさから幅広い層に利用されている。
- 対象者: 自治体職員、地域の活性化に関心を持つ人々、企業のマーケティング・店舗開発担当者、データ分析に関心のある学生・社会人、エンジニアなど。
- 教育分野での活用:
- 高校の「地理総合」などにおける課題探究型の学習に適している。
- 生徒向けのまんがブックレット『そうだったのか!RESASでわかる私たちの地域』が用意されている。
- 内閣府主催の「地方創生☆政策アイデアコンテスト」では、RESASを活用した政策提言が募集されており、高校生・中学生以下の部も設けられている。
- 具体的な分析事例(埼玉県資料より):
- 秩父市: 人口ピラミッドから高齢化と生産年齢人口の減少を把握。産業構造を分析し、情報通信産業の活性化による雇用創出の可能性を検討。
- 川越市: 宿泊業の事業所数減少と付加価値額の低さから、宿泊施設拡充よりも滞在時間延長やリピーター獲得施策を優先すべきと判断。観光施設の検索ランキングから季節ごとの集客核を特定し、周遊性を高める施策を提案。
- 狭山市: 観光マップの目的地検索ランキングから「智光山公園」などが集客力を持つことを把握。「狭山茶」を活用した体験型消費(コト消費)や、SNSによる若者向け情報発信事業を提案。
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2. 地図で見る統計 (jSTAT MAP)
jSTAT MAPは、政府統計(e-Stat)のデータを地図上に表示し、地域分析を行うためのWebGISである。
3.1. 目的と提供主体
- 提供主体: 総務省統計局(運用管理は独立行政法人統計センター)
- 位置づけ: 政府統計の総合窓口(e-Stat)内にある「地図で見る統計(統計GIS)」のWebGIS機能。
- 目的: 国勢調査や経済センサスなどの統計調査データを地図上に表示し、利用者のニーズに沿った地域分析を可能にする。
3.2. 主要機能
jSTAT MAPは、地図作成と分析に関する多彩な機能を提供する。
- 統計地図作成:
- 国勢調査などの統計データを選択し、都道府県や市区町村、小地域単位での階級区分図(ヒートマップ)を容易に作成できる。
- RESASとは異なり、作成した地図の凡例(色の区分や順序)をサイト内で編集・加工できる柔軟性を持つ。
- プロット作成機能: 住所データなどを地図上に点で表示する。
- エリア作成機能: 地図上で任意の分析エリアを作成する。
- リッチレポート機能:
- ログインユーザー向けの機能。
- 指定した地点からの到達圏内(例:車で20分圏内)の統計データを分析し、地図やグラフを含む詳細なレポートをExcel形式で自動出力する。
- 人口、年齢構成、世帯数、世帯数増減など、商圏分析の初期段階で必要となる情報が網羅されており、複数エリアの比較分析に極めて有用である。
- 操作が簡単で、迅速に分析の足がかりを得られる点が特徴。
3.3. 利用方法
- アクセス: e-Statのトップページから「地図」アイコンをクリックし、「地図で見る統計(jSTAT MAP)」を選択する。
- ログイン: ログインせずに基本的な機能を利用開始できるが、作成した地図の保存やリッチレポート機能の利用にはユーザー登録とログインが必要。
- 地図作成: 画面右下の「統計地図作成」から「統計グラフ作成」を選択し、使用したい統計調査(例:2015年国勢調査)、統計表、指標(例:人口密度)を選択していくことで地図が表示される。
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3. RESASとjSTAT MAPの比較と連携
両ツールは共に強力な地域分析ツールであるが、その目的と機能には明確な違いがある。
| 項目 | RESAS | jSTAT MAP |
| 主目的 | 官民ビッグデータの可視化と共有による地方創生支援 | 公的統計データを用いた利用者による統計地図の作成・分析 |
| 提供主体 | 内閣府、経済産業省 | 総務省統計局 |
| データソース | 官民の多様なビッグデータ | 国勢調査、経済センサスなど政府の基幹統計 |
| カスタマイズ性 | 低い(表示された地図・グラフの閲覧が中心) | 高い(凡例の編集、エリア指定など地図を自由に加工可能) |
| 主な用途 | 地域の課題発見、政策立案の初期検討、教育 | 商圏分析、学術研究、特定の指標に基づく詳細な地理的分析 |
| 強み | 多様な切り口の分析メニューが予め用意されている。直感的でわかりやすい。 | 統計データを基にした精緻な地図をゼロから作成できる。リッチレポート機能が強力。 |
| 弱み | 表示された地図の加工ができない。データの元となる詳細な定義が追いづらい場合がある。 | 操作にやや慣れが必要。分析には統計に関する基礎知識が求められる。 |
連携活用シナリオ:
- 課題発見 (RESAS): RESASの「人口マップ」や「産業構造マップ」を用いて、ある市町村で特定の産業に従事する若年層が減少しているというマクロな傾向を発見する。
- 深掘り分析 (jSTAT MAP): jSTAT MAPを使い、国勢調査のデータからその市町村内のどの小地域で特に若年層の人口減少が著しいかを地図上で可視化する。
- 施策立案: 両方の分析結果を組み合わせ、特定の地域をターゲットとした産業振興策や若者定住支援策を立案する。

