「令和7年版 労働経済白書」の概要についてお伝えします。
第I部 2024年、私たちの経済と雇用はどう動いたか
2024年の日本経済は、長いトンネルを抜け、緩やかな回復の道を歩みました。特に、景気の回復が長期化し、名目GDP(国内総生産)が初めて600兆円を超えるという大きな節目を迎えました。
1. 賃金と物価:私たちの生活は良くなった?
物価高の影響もあり、働く人全体の「実質賃金」(もらえるお金で実際に買えるモノやサービスの量)は残念ながら3年連続で減少しました。このニュースを聞くと、手取りが増えた実感がないのも当然だと共感を覚える方も多いでしょう。
しかし、前向きな動きも見られます。
- 賃上げの広がり: 33年ぶりの高水準となった春季労使交渉の賃上げを受け、現金給与総額は4年連続で増加しています。
- 中小企業に波及: 特に、これまで賃上げが遅れがちだった従業員5〜29人の中小規模の事業所でも、所定内給与やボーナスなどの「特別給与」が増加しており、賃金上昇の動きが広がりを見せました。
- 特に、事業所規模「5〜29人」では、特別給与の伸び率が前年比12.1%と、他の規模よりも高い伸びを示しています。
| 指標 | 2024年の動向 | コメント |
| 名目GDP | 初めて600兆円を突破 | 経済規模は過去最高水準 |
| 現金給与総額 | 4年連続で増加 | 賃上げの動きが継続 |
| 実質賃金(全体) | 3年連続で減少 | 物価高の影響を強く受ける |
| 実質賃金(一般・パート) | マイナスから脱出 | 賃上げが物価上昇を上回る兆し |
2. 雇用情勢:人手不足がさらに深刻に
働き手の状況を見ると、女性や高齢者の方の労働参加が進んだ結果、労働力人口、就業者数、雇用者数がいずれも過去最高を更新しました。
働く人が増えたことは喜ばしいことですが、同時に、企業の人手不足感はさらに強まっています。
- 人手不足の深刻化: 大企業だけでなく、中堅企業や中小企業でも「人が足りない」という声が高まっています。
- 求人の減少: 新規の求人数や有効求人数は、実は4年ぶりに減少しました。これは、特にパートタイム労働者の求人で顕著です。人手不足が深刻化しすぎて、「求人を出しても人が集まらない」という状況が背景にあると考えられます。
- 労働組合の動向: 労働組合員数の全体は減少傾向にありますが、パートタイム労働者の組合員数は過去最高を更新しています。多様な働き方をする人々の間で、自分たちの処遇改善への意識が高まっている証拠かもしれません。
第II部 労働力制約を乗り越え、持続的な成長へ
人手が減っていくという避けられない現実の中で、日本経済が成長を続けるために、この分析は三つの重要な柱を提示しています。
1. 労働生産性の向上
働き手の数が減る以上、一人ひとりの生産性、つまり「生み出す価値」を高めることが不可欠です。
- 企業が、人手不足をITやソフトウェアなどの「無形資産」への積極的な投資で乗り越え、効率を上げる取り組みが重要になります。
2. 社会インフラを支える職業の人材確保
私たちの生活の基盤(インフラ)を支えている職業で、人手不足が特に深刻です。この分析では、以下の3つのグループに焦点を当てています。
- 医療・保健・福祉
- 保安・運輸・建設
- 接客・販売・調理
これらの職業は、給与水準や労働環境、仕事の柔軟性などにおいて、他の職種と異なる特徴を持っています。社会になくてはならない仕事だからこそ、新規人材の確保や、今いる人材が長く働き続けられるようなキャリア制度の構築が強く求められています。
3. 変化に対応した雇用管理
働く人の意識や、企業と労働者の関係性も変わってきています。終身雇用といった従来の「日本的雇用慣行」が変化し、転職市場が拡大する中で、企業は新しい雇用管理を考える必要があります。
働く皆さんが「この会社で長く働きたい」と心から思えるようにするために、企業がどんな取り組みをすべきか、分析の結果は明確な答えを出しています。
| 雇用管理施策のポイント | 理由 |
| 処遇の改善 | 若手を含む賃金の引き上げや評価制度の変更が、労働者の継続就業希望を最も高める。頑張りが報われることが、長く働く意欲につながります。 |
| ワーク・ライフ・バランスの推進 | 年次有給休暇の取得促進や長時間労働の防止は、働く人の健康と生活の充実、そして定着に欠かせません。 |
まとめ:未来は「人」と「価値」にかかっている
「令和7年版 労働経済白書」が私たちに伝えているのは、厳しい現実と、それを乗り越えるための確かな道筋です。
働く人の数は減りますが、2024年に見られた賃金上昇の波をさらに強くし、一人ひとりが持つ力を最大限に引き出す環境を整えれば、日本経済は持続的に成長できると示しています。
人手不足を嘆くだけでなく、新しい時代の働き方、新しい価値の生み出し方が必要となっています。

