はじめに
中小企業の経営者の皆様、「求人を出しても人が集まらない」「ベテラン社員に依存しすぎている」「人件費は上がるのに売上は頭打ち」こんな悩みを抱えていらっしゃる方は、今年は締切まで1ヶ月しかないので難しいですが、来年に向け、「省力化投資補助金(一般型)」を検討してみましょう。賃上げは待ったなし – どうせ投資するなら、国の支援を受けるのがベストです。

(参考)第3回までの状況
- 採択率60.9%という異例の高さ – 通常30〜40%の採択率が、今回は60%超
第1章:省力化投資補助金の基本
1-1. 制度の概要
この補助金は、人手不足の解消を目的として、省人化・自動化のための設備投資を国が支援する制度です。重要なのは、自社の課題に合わせてカスタマイズした「オーダーメイド型」の設備導入が前提という点です。
1-2. 補助金額と補助率
| 事業者区分 | 従業員数 | 補助上限額 | 補助率 |
|---|---|---|---|
| 小規模事業者 | 5人以下 | 750万円 | 2/3 |
| 中小企業 | 6〜20人 | 1,500万円 | 1/2 |
| 中小企業 | 21〜100人 | 1,500万円 | 1/2 |
| 中小企業 | 101人以上 | 最大8,000万円 | 1/2 |
【例】従業員3名の飲食店の場合
- 総投資額:1,125万円
- 補助金:750万円(2/3補助)
- 自己負担:375万円
1-3. 「オーダーメイド」とは?
完全な新規開発だけでなく、以下も認められます。
- 汎用製品に自社専用の機能を追加
- 複数の汎用製品を組み合わせて独自システムを構築
- 既製品を自社の業務フローに合わせてカスタマイズ
第2章:申請の必須要件
2-1. 労働生産性の向上
要件: 年平均成長率4%以上の労働生産性向上
労働生産性 = 営業利益 ÷ 従業員数
例:
- 現状:営業利益2,000万円 ÷ 従業員5名 = 400万円/人
- 3年後:営業利益2,500万円 ÷ 従業員5名 = 500万円/人
- 成長率:年平均7.7%(要件クリア)
2-2. 賃上げ要件(最重要)
以下の2つから選択します。
選択肢①:一人当たり給与支給総額の引き上げ
- 都道府県の最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上
- 例:大阪府では4.1%必要(非常に厳しい)
選択肢②:給与支給総額の引き上げ(推奨)
- 会社全体で年平均成長率2.0%以上
- ベースアップ+新規雇用で達成可能
具体的な達成方法:
- 全従業員を2.5%昇給:年平均成長率2.5%
- ベースアップ2%+パート1名雇用:年平均成長率4〜5%
採択率を高めるには、最低要件2.0%ではなく、3〜5%程度を目指すのがおすすめです。
2-3. 事業所内最低賃金
事業所内で最も時給が低い従業員の賃金を、地域の最低賃金より常に+30円以上高く維持する必要があります。
例:福岡県の場合
- 福岡県の最低賃金:2025年11月16日から時給1,057円
- 事業所内最低賃金:1,087円以上を維持
2-4. その他の要件
- 投資回収期間:原則5年以内
- オーダーメイド設備:自社専用にカスタマイズされた設備
- 次世代育成支援:従業員21名以上の事業者のみ必要
第3章:申請に向けた実践3ステップ
ステップ1:課題の再定義と業務の分解
人手不足を再定義する
「人手不足」には2種類あります。
- 顕在的:求人しても人が集まらない、残業が恒常化
- 潜在的:ベテラン社員に依存、もっと人手があれば売上を伸ばせる
業務の小口化
社内の業務を細かい工程に分解します。
飲食店の例: 従来:「接客と調理」 ↓ 小口化後:
- 来店客の案内
- 注文受付 → セルフオーダーで代替可能
- 調理
- 配膳
- 会計 → セルフレジで代替可能
- 片付け
ステップ2:解決策の立案と設備選定
ボトルネックを特定
以下の基準で特定します。
- 特定の人にしかできない作業(属人化)
- 時間がかかりすぎている作業
- ミスが多い作業
- 体力的にきつい作業
オーダーメイド設備を考える
ボトルネックを解消するための設備を検討し、「自社の課題に合わせたカスタマイズ」を加えます。
製造業の例:
- 汎用の画像認識カメラ + 自社製品特有の傷を検知する専用照明 + 独自の判定アルゴリズム = オーダーメイド検品システム
ステップ3:実行計画の策定
余剰人員の再配置計画(必須)
省力化で生まれた時間・人員を、より付加価値の高い業務に振り向ける計画が必須です。
再配置の例:
- 営業強化
- 新商品の企画・開発
- 顧客満足度向上のための接客強化
資金計画(最重要)
補助金は後払いです。一時的に全額を立て替える必要があります。
推奨: 申請前に金融機関へ事前相談し、融資の内諾を得ておくことが、プロジェクト成功の最重要ポイントです。
第4章:3つの具体的成功事例
事例1:個人経営の中華料理店(従業員3名)
課題
- 店主(68歳)の高齢化で、名物チャーハンの調理が体力的に限界
- ランチタイムに行列ができても調理が追いつかず、年間300〜500万円の機会損失
導入設備
- 汎用の自動チャーハン調理ロボット + 秘伝のタレ自動投入システム + 独自の鍋振り動作プログラム
- 総投資額:1,000万円
- 補助金:666万円(2/3)
- 自己負担:334万円
成果
- 調理時間:1人前3分 → 1.5分(半減)
- ランチ提供数:40食 → 70食(1.75倍)
- 年商:3,000万円 → 4,200万円(40%増)
- 投資回収期間:約6ヶ月
店主は重労働から解放され、接客や新メニュー開発に時間を使えるようになりました。
事例2:金属部品製造業(従業員15名)
課題
- 熟練工(62歳)の目視検品に完全依存
- 定年退職が迫り、技術継承が喫緊の課題
- 年間0.3%の不良品流出
導入設備
- AI画像認識システム + 自社製品特有の反射を抑える専用照明 + 過去の不良品データを学習した独自判定アルゴリズム
- 総投資額:3,000万円
- 補助金:1,500万円(1/2)
- 自己負担:1,500万円
成果
- 検品速度:30秒/個 → 3秒/個(10倍)
- 生産能力:月産20,000個 → 30,000個(50%増)
- 不良流出率:0.3% → 0.05%(83%削減)
- 年商:2.0億円 → 2.8億円(40%増)
- 投資回収期間:約1.3年
熟練工は検品から解放され、若手育成と品質改善活動に専念できるようになりました。
事例3:EC事業者(従業員25名)
課題
- 月間15,000件の出荷で、誤出荷率0.8%(月間120件)
- クレーム対応に月間200時間を費やす
- パート離職率50%
導入設備
- 汎用の在庫管理システム + タブレット・バーコードリーダー・重量計を搭載したピッキングカート + 独自の3重チェックロジック
- 総投資額:1,700万円
- 補助金:850万円(1/2)
- 自己負担:850万円
成果
- 誤出荷率:0.8% → 0.05%(94%削減)
- ピッキング時間:3分/件 → 2分/件(33%短縮)
- パート離職率:50% → 15%(70%改善)
- 年商:5.0億円 → 6.5億円(30%増)
- 投資回収期間:約3.4ヶ月
パート従業員の働きやすさが向上し、定着率が劇的に改善しました。
第5章:申請成功のポイントと注意点
5-1. 申請書作成のコツ
ストーリーを明確に
- 現状の課題
- 解決策(導入する設備)
- オーダーメイドの必然性
- 導入後の姿
- 数値計画
数値で示す 「生産性が向上します」ではなく、「作業時間が50%短縮され、労働生産性が年平均7%向上します」と具体的に。
5-2. よくある失敗パターン
失敗①:汎用品の単純購入 → 対策:自社の課題に合わせたカスタマイズを必ず追加
失敗②:賃上げ計画が最低ラインギリギリ → 対策:3〜5%程度の成長率を計画に盛り込む
失敗③:余剰人員の計画が不明確 → 対策:具体的な再配置先と業務内容を明記
5-3. 専門家の活用
相談すべきケース:
- 初めての補助金申請
- 採択率を最大限高めたい
- 時間がない
専門家の報酬相場:
- 着手金:10〜30万円
- 成功報酬:補助金額の10〜15%
5-4. 申請スケジュール
| 時期 | やるべきこと |
|---|---|
| 先ずは | 課題整理、業務の小口化 |
| 1ヶ月後 | 設備メーカーに相談、見積取得 |
| 2ヶ月後 | 金融機関への事前相談 |
| 3ヶ月後 | 申請書作成開始 |
| 締切1週間前 | 最終チェック、書類提出 |
第6章:今すぐ始める5つのアクション
アクション1:社内の業務を書き出す(2時間)
紙に社内の業務を思いつく限り書き出してください。「誰が」「どのくらいの時間」やっているかも記入します。
アクション2:ボトルネックを3つ挙げる(30分)
特定の人にしかできない、時間がかかる、ミスが多い、体力的にきつい作業を3つ選びます。
アクション3:設備メーカーに相談する(1日)
2〜3社に連絡し、「こんな課題があるが解決できるか」「オーダーメイド対応は可能か」「概算費用は?」を聞きます。
アクション4:金融機関に事前相談する(1日)
取引銀行に「補助金に採択されたら設備投資をする。つなぎ融資をお願いしたい」と相談します。
アクション5:専門家依頼を判断する(30分)
自力で申請するか、専門家に依頼するかを決めます
よくある質問(FAQ)
Q1. 製造業以外でも対象になりますか? A. なります。飲食業、小売業、サービス業、建設業など、ほぼすべての業種が対象です。
Q2. 従業員が少ない小さな会社でも申請できますか? A. できます。むしろ従業員5名以下は補助率2/3と最も有利です。
Q3. オーダーメイドの定義がよく分かりません。 A. 汎用製品の組み合わせでも、自社独自の課題解決につながっていればOKです。
Q4. 賃上げ要件が厳しすぎます。 A. 「給与総額の年2.0%増」なら、ベースアップ2%+新規雇用で達成可能です。
Q5. 採択されなかったらどうなりますか? A. 補助金は受け取れませんが、設備は発注していないためキャンセル料は発生しません。
Q6. 申請を自分でやるか、専門家に頼むか迷っています。 A. 時間的余裕があり、文章作成が得意なら自力でも可能です。ただし採択率を最大限高めたいなら、専門家の活用をお勧めします。
参考情報・相談窓口
無料相談窓口
- 商工会議所・商工会
- よろず支援拠点
- 中小企業基盤整備機構
- 金融機関(銀行・信用金庫)

