1. はじめに
中小企業においては、経営者が複数の役割を兼務するケースが多く見受けられます。現場業務、営業活動、経営戦略の立案と遂行など、あらゆる業務を経営者が担う状況は決して珍しくありません。しかしながら、企業の持続的成長と組織の自立性を確保するためには、経営者の業務配分の見直しが不可欠です。
本稿では、経営者の業務を「現場業務:重要顧客営業:経営戦略」の3区分に分け、それぞれの適正比率を「2:4:4」とした上で、その理由と実践方法について考察します。
2. 業務配分「2:4:4」を目指す
経営者の時間(週40時間換算)を以下の通り配分することを目指しましょう。
業務区分 | 時間(目安) | 役割と目的 |
---|---|---|
現場業務 | 約8時間 | 現場状況の把握、課題のヒアリング、品質・安全の確認 |
営業活動 | 約16時間 | 主要顧客との関係強化、新規商談、売上拡大のための対外活動 |
経営戦略 | 約16時間 | 中長期計画、資金計画、人材育成、DX・業務改革、新規事業立案など |
この比率はあくまでモデルであり、業種・業態・人員体制に応じて弾力的に調整する必要がありますが、「現場作業を減らし、営業と戦略に集中する」方向性は、あらゆる企業に共通する原則といえます。
※なお、個人事業主など少人数体制の事業においては、現場業務を一定割合で担わざるを得ない場合も多いため、以下のような比率が現実的かつ実行可能な配分と考えられます。
業務区分 | 時間比率(小規模事業)4:3:3 | 時間比率(個人事業)5:3:2 |
---|---|---|
現場業務 | 40%(例:16時間) | 50%(例:20時間) |
営業活動 | 30%(例:12時間) | 30%(例:12時間) |
経営戦略 | 30%(例:12時間) | 20%(例:8時間) |
3. なぜ現場から手を引くべきか
現場業務に経営者が多くの時間を割くことは、短期的には効率的に見えても、以下のような中長期的リスクを孕みます。
- 属人化の促進:社長でなければ回らない現場は、後継者不在・離職リスクの温床になります。
- 人材育成の機会損失:従業員が責任を持ち成長する機会を奪ってしまいます。
- 戦略的思考の欠如:日々の業務に追われ、本来経営者が担うべき「未来をつくる仕事」に時間を割けません。
4. 営業と戦略に集中する意義
(1) 営業活動(重要顧客との関係構築)
中小企業において、社長の営業は「看板」そのものです。信頼関係の構築、新たな案件の獲得、顧客ニーズの直接把握など、経営者自ら動くことで得られる成果は非常に大きなものがあります。
(2) 経営戦略(未来への投資)
以下のような分野は、経営者にしか判断・決定できない事項です。
- 事業再構築・新分野進出の可否判断
- 人材育成・採用戦略
- 業務プロセスの抜本的見直し(業務改善・DX)
- 中長期的な資金繰りと投資計画
- 経営理念・組織文化の醸成
5. 実行のためのステップ
ステップ | 具体的行動例 |
---|---|
① 現場から段階的に離れる | 業務マニュアルの整備/現場リーダーの任命/権限委譲 |
② 営業先の見直し | 経営者が対応すべき重要顧客の選定/定期訪問・懇談のスケジュール化 |
③ 戦略時間の確保 | 毎週・毎月の「戦略思考タイム」の確保/外部環境や自社分析の習慣化 |
④ 成果の可視化 | KGI/KPIの設定(営業成約率、新商品売上比率、業務効率改善率など)、⇒実施⇒チェック⇒アクションの仕組みづくり |
6. おわりに
経営者がどこに時間を使うかは、企業の成長スピードと方向性を決定づけます。現場を信頼して任せることは、決して“手を抜く”ことではなく、“育てる”ことであり、“未来をつくる”ことです。
戦略のない現場主義は、船頭のいない舟に等しく、やがて漂流を始めます。
経営者が“未来航路の設計者”として舵を取ることが、社員のやる気を高め、企業の持続的な発展につながるのです。