新規事業を検討する場合のツールを紹介します。
リーンキャンバスは、順番に置いて終わるのではなく、各項目を横断しながら加筆修正し、全体の整合性を高めていくものです。 そのため、表の構成は「順番通りに書くため」ではなく、「全体を見渡しやすいようにする」に設計されています
リーンキャンバスの目的
リーンキャンバスは「新規事業のビジネスモデルを短時間で可視化し、顧客視点で価値や課題、収益構造を明確にできるフレームワーク」です。特にリソースが限られる中小企業やスタートアップ向けに、無駄を減らし、市場適合性を素早く検証・修正できる点が強みです。
主な目的
- 事業アイデアの全体像を1枚の紙で俯瞰し、関係者と共有・合意形成をしやすくする。
- 顧客の課題やニーズを明確にし、価値提案や差別化ポイントを具体化する。
- 仮説を立ててすぐに検証・修正し、ビジネスのリスクを最小化する。
リーンキャンバスの具体的な書き込み
順番を意識する
まず「顧客セグメント(誰が顧客か)」→「課題(どんな悩みや困りごとがあるか)」→「独自の価値提案(どんな価値を提供できるか)」→「ソリューション(具体的な解決策)」→「チャネル(どうやって届けるか)」→「収益の流れ(どうやって収益を得るか)」→「コスト構造(どんなコストがかかるか)」→「主要指標(何を指標に成功を測るか)」→「圧倒的な優位性(他社に真似できない強み)」の順で考えていくのが推奨されています
簡潔に書く
1枚の紙やA4用紙1枚程度にまとめ、1項目につき数行程度で簡潔に書くのがポイントです。
仮説として書く
正しさや完璧さにこだわらず、まずは現時点で考えられる内容を仮説として書き出します。後から検証・修正していく前提です。
空欄があってもOK
すぐに埋められない項目は空欄のままでも構いません。プロジェクトの進行とともに埋めていきます。
PDCAサイクルでブラッシュアップ
一度書いて終わりではなく、市場や顧客のフィードバックをもとに何度も見直し、改善していきます
リーンキャンバスは、短時間で作成できることが大きな特徴
一般的な目安としては「10分~15分程度」で書き上げるのが推奨されています。これは、仮説を簡潔にまとめてすぐに検証や修正を繰り返すためのフレームワークだからです。どんなに時間がかかっても「30分以内」に完成させることを目標にしましょう。長時間かけて考え込むよりも、まずは短時間で書き上げ、その後何度もブラッシュアップするのが効果的です
順番 | 項目 | 記載例・注意点 |
---|---|---|
1 | 課題 | 代替サービスも記載。 |
2 | 顧客利益 | プロパティを具体的に。アーリーアダプター(新製品やサービスをいち早く導入する層)も想定。 |
3 | 独自の価値提案 | 競争との差別化ポイントを考慮に。 |
4 | ソリューション | 課題ごとの具体的な解決策を3つ程度。 |
5 | チャネル | 顧客が集まる複数チャネルを想定。 |
6 | 収益の流れ | 現行モデルを明確に。 |
7 | コスト構造 | 想定コストを考慮に。 |
8 | 主要指標 | 成功指標を明確に。 |
9 | 圧倒的な優位性 | 競合先が真似できない強みを確信 |
具体的な活用方法
新規事業・サービスの立ち上げ時
アイデアをリーンキャンバスに書き出し、顧客セグメントや課題、価値提案を明確化。
チームでディスカッションし、多様な視点から事業の方向性やリスクを洗い出す。
既存事業の見直し・改善時
市場や顧客の変化に応じて、既存のビジネスモデルをリーンキャンバスで再整理。
KPI(主要指標)や収益・コスト構造を見直し、改善策を検討。
企画書・プレゼン資料として
短時間で作成でき、経営者や投資家、従業員に分かりやすく伝える資料として活用。
仮説検証・PDCAサイクルの加速
プロトタイプやランディングページ(商品・サービスの注文やお問い合わせの獲得に特化した縦長のページ)で仮説をテストし、結果に基づきキャンバスを修正する。
「新規事業(新商品・新市場・販売拡大)」の具体的な検討例
1. 既存商品の新フレーバー開発(新商品)
順序 | 項目 | 記載例・検討内容 |
---|---|---|
1 | 課題 | 既存商品の売上停滞、若年層からの人気低下、季節限定商品のリピート率低い |
2 | 顧客セグメント | 20~30代の若年層、健康志向の女性、既存顧客 |
3 | 独自の価値提案 | 新フレーバーで若年層にアピール、低糖質・低カロリーで健康志向にも対応 |
4 | ソリューション | 季節限定・新フレーバー商品の開発、試食会・SNSプロモーション |
5 | チャネル | 自社EC、スーパー、コンビニ、SNS広告 |
6 | 収益の流れ | 商品販売、期間限定アイテムの追加収益 |
7 | コスト構造 | 原材料費、開発費、プロモーション費 |
8 | 主要指標 | 新規顧客獲得数、既存顧客リピート率、SNS反響 |
9 | 圧倒的な優位性 | 地元食材使用で差別化、既存ブランドの信頼感 |
2. 新市場開拓(女性向け商品ライン展開)
順序 | 項目 | 記載例・検討内容 |
---|---|---|
1 | 課題 | 既存市場が飽和、女性向け商品が不足、新たな成長機会が欲しい |
2 | 顧客セグメント | 30~50代女性、働く女性、健康意識の高い主婦 |
3 | 独自の価値提案 | 女性のニーズに合ったデザイン・機能、使いやすさ・安全性重視 |
4 | ソリューション | 女性向け商品ラインの開発、健康補助食品や美容関連アイテム |
5 | チャネル | ドラッグストア、ECサイト、女性向けメディア広告 |
6 | 収益の流れ | 商品販売、定期購入サービス |
7 | コスト構造 | 開発費、広告費、流通コスト |
8 | 主要指標 | 新規顧客獲得率、女性客比率、リピート率 |
9 | 圧倒的な優位性 | 既存ブランドの信頼感、女性目線の商品開発体制 |
※ワークマンが「ワークマン女子」として女性市場を開拓した事例も参考になります。
3. 販売拡大(ECサイト開設による全国展開)
順序 | 項目 | 記載例・検討内容 |
---|---|---|
1 | 課題 | 地域限定販売で売上の頭打ち、新規顧客獲得が難しい |
2 | 顧客セグメント | 全国の一般消費者、既存顧客、ネット通販利用者 |
3 | 独自の価値提案 | どこでも買える、送料無料キャンペーン、特典付き |
4 | ソリューション | ECサイトの開設・運営、SNS集客、キャンペーン実施 |
5 | チャネル | 自社EC、楽天・Amazon、SNS |
6 | 収益の流れ | 商品販売、定期購入、会員ポイント還元 |
7 | コスト構造 | ECサイト構築費、運営費、広告費、配送費 |
8 | 主要指標 | 新規顧客獲得率、リピート率、EC売上比率 |
9 | 圧倒的な優位性 | 地元密着ブランドの全国展開、独自商品の強み |
ポイント
リーンキャンバスは、新規事業の仮説を「誰に・何を・どうやって」と具体的に整理し、素早く検証・修正できるツールです。まずは「顧客」と「課題」から書き始め、プロトタイプやテストマーケティングで検証を繰り返すことで、失敗リスクを最小限にできます。