以下、労働・社会保険業務研修会での内容です。社会保険労務士向けの研修会でしたが、中小企業の方も関係する部分が多いので是非とも、参考にしてください。尚、抜粋ですので、詳細な内容は各省庁等のホームページ等をご確認ください。
1. 算定基礎届の提出と注意点
毎年9月から翌年8月までの社会保険料の計算のもとになる「標準報酬月額」を決めるための大切な手続きです。
変更点・注意点
- 提出期限の厳守: 7月10日(木)が提出期限です。この日までに提出された書類は、8月末までに結果が通知されるよう優先的に審査されます。11日以降に提出すると、結果の通知が9月以降になる可能性があります。
- 電子申請の推奨: 最も間違いが少なく、処理が早いのは電子申請です。可能な限り電子申請を利用しましょう。
- 年金事務所窓口への提出は遅延の原因に: 年金事務所の窓口に直接提出すると、書類が事務センターに届くまでに時間がかかり、結果通知が遅れる場合があります。提出期限内であっても通知が遅れる可能性があるので、電子申請か、同封されている封筒で直接事務センターへ郵送するのがおすすめです。
- 提出対象者:
- 7月1日現在で会社に勤務している全ての社会保険加入者が対象です。育児休業中や介護休業中、病気で休んでいる方、70歳以上の方も含まれます。
- 提出用紙は5月19日時点のデータをもとに作成されています。7月1日時点で新しく加入している方がいたら、追加で記入が必要です。
- 7月1日時点で退職している方は提出不要です。該当する方の欄は大きく斜線で消し、「〇月〇日退職」と備考欄に記入しましょう。
- 2か所以上の会社に勤務する方:
- 複数の会社で働いている方の算定基礎届は、ご自身が社会保険を選んでいる方の会社を管轄する事務センターから、それぞれの会社に送られます。
- 提出先も、社会保険を選んでいる会社を管轄する事務センターになりますので注意しましょう。
- 70歳以上の方:
- 75歳以上になると健康保険や厚生年金の資格を失いますが、在職中の厚生年金受給者(年金をもらいながら働いている方)は、年金額の調整のために提出が必要です。
- 「社会保険適用促進手当」について:
- これは、パートやアルバイトの方の社会保険加入を後押しするために、会社が支給する手当です。
- この手当は、社会保険料の計算から除外されます。
- この手当を支給した場合は、給与明細に「社会保険適用促進手当」と明記する必要があります。従業員の方が年金定期便を見たときに、給料と金額が違うと戸惑わないようにするためです。
- 「支払い基礎日数」の記入に注意:
- 「支払い基礎日数」とは、給与が支払われた対象期間の日数のことです。時給や日給の方の場合は「出勤日数+有給休暇日数」、月給の方の場合は「暦日数(30日や31日など)」が基本です。
- 給与の支払い日を記入してしまう間違いが多いので注意しましょう。例えば、毎月10日が給料日だからといって「10日」と記入してしまうと、社会保険料の計算に影響が出ることがあります。
- 月給の方で欠勤があった場合は、会社の就業規則などで定められた「所定労働日数」から欠勤日数を引いた日数を記入します。
- 途中入社の方の記入:
- 給与計算期間の途中で入社された方は、その月の給与が丸々1ヶ月分ではないため、算定の対象から除外されます。
- 「支払い基礎日数」や「報酬額」は実際に支払われた通りに記入し、「修正平均額」の欄に、対象外の月を除いた金額を記入します。
- 「途中入社」であることがわかるように、備考欄への記入も忘れずに行いましょう。
- 3か月間すべて「支払い基礎日数」が基準未満だった場合:
- 一般的な社会保険加入者は、支払い基礎日数が17日以上の月の報酬で標準報酬月額が決定されます。
- もし4月・5月・6月の3ヶ月すべてで支払い基礎日数が17日未満だった場合は、「支払い基礎日数」や「報酬額」は実際に支払われた通りに記入しますが、「合計額」と「平均額」の欄は空欄にします。この場合、以前の標準報酬月額がそのまま適用されます。
2. 電子申請と事業所向けオンラインサービスの活用
社会保険の手続きは、より便利でスムーズに、そして間違いなく行えるように、オンラインでの利用が推進されています。
変更点・注意点
- 電子申請の浸透: 多くの手続きが電子申請で行われるようになり、利用率は74%に達しています。
- 電子申請のメリット:
- 24時間365日、いつでもどこでも申請可能です。
- 来所や郵送にかかる時間や費用を削減できます。
- データで処理されるため、処理が早く、正確です。
- システムが内容をチェックしてくれるので、間違いを防げます。
- 処理状況や結果通知をパソコンで確認でき、データ管理も簡単です。
- 事業所向けオンラインサービス:
- 毎月の社会保険料などの情報通知書をオンラインで受け取れるサービスです。
- 主な情報: 保険料納入告知額(口座振替の金額など)、社会保険料情報(納付額の見込み)、被保険者データ(手続きに利用できるデータ)、決定通知書(提出した書類の処理結果)など。
- メリット:
- 一度申し込めば、定期的に情報を受け取れるため、必要な都度年金事務所に連絡する必要がありません。
- 郵送よりも早く情報を受け取れます。
- 24時間365日、どこでも情報の確認ができます。
- 被保険者データを活用することで、電子申請での書類作成が簡単になります。
- 利用対象者の拡大: 以前は特定の事業主しか利用できませんでしたが、令和7年1月からは電子証明書を持つ方や社会保険労務士も利用できるようになりました。
3. 育児休業中の社会保険料免除要件の変更
令和4年10月から、育児休業中の社会保険料の免除に関するルールが変わっています。
変更点・注意点
- 改正の目的: 男女ともに仕事と育児を両立しやすくするために、育児休業の取得を促進することです。
- 月額保険料の免除要件:
- これまでと同じく、育児休業を開始した月の月末が育児休業期間中の場合は、その月の社会保険料は免除されます。
- これに加えて、育児休業を開始した月に14日以上育児休業を取得した場合も、その月の社会保険料が免除されるようになりました。
- 14日以上のカウントには、土日などの休日も含まれますが、育児休業期間中に会社で働く予定があった場合は、その日は除いて計算します。
- 同じ月に複数の育児休業を取得した場合は、日数を合算して計算します。
- 賞与(ボーナス)保険料の免除要件:
- これまでと同じく、育児休業を開始した月の月末が育児休業期間中の場合は、その月の賞与保険料は免除されていましたが、改正後は、賞与を支払った月の月末を含んだ連続した1ヶ月を超える育児休業を取得した場合のみ免除されるようになりました。
- つまり、育児休業が1ヶ月を超える場合のみ、賞与保険料が免除されることになります。
- 1ヶ月を超えるかどうかの判断は、暦日(土日なども含めた日数)で行います。
4. 特定適用事業所の拡大と社会保険加入の要件変更
パートやアルバイトの方の社会保険の加入対象が広がり、さらに今後の変更も検討されています。
変更点・注意点
- 特定適用事業所の拡大:
- 特定適用事業所とは、短時間で働く方も社会保険に加入しなければならない会社のことを指します。
- 令和6年10月からは、社会保険に加入している従業員が51人以上の会社が対象となります。(これまでは101人以上でした)
- この51人のカウントには、フルタイムで働く従業員と、週の労働時間・月の労働日数がフルタイムの4分の3以上で社会保険に加入している従業員が含まれます。健康保険のみ加入の70歳以上の方は含まれません。
- 社会保険の加入対象となるパート・アルバイトの要件:
- 以下の4つの条件をすべて満たす方が社会保険の加入対象となります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額の賃金が8万8千円以上(残業代やボーナス、皆勤手当、通勤手当、家族手当は含まず、基本給とその他の手当の合計額で判断します。)
- 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
- 注意: 資格取得届を記入する際の報酬額は、上記8万8千円の計算とは異なり、各種手当を含んだ金額となります。
- 以下の4つの条件をすべて満たす方が社会保険の加入対象となります。
- 今後のさらなる変更(審議中):
- 現在、国会で年金制度改正案が審議されており、今後、特定適用事業所の規模要件や、パート・アルバイトの賃金要件がさらに緩和される可能性があります。
- 事業所の規模要件: 令和9年10月から36人以上、令和11年10月から21人以上、令和14年10月から11人以上、そして令和17年10月には撤廃が検討されています。
- 賃金要件(月額8万8千円以上): 令和8年10月に撤廃が予定されています。
- これらはあくまで審議中の内容ですので、正式に決定された際には再度確認が必要です。
- 遡及して給与改定が行われた場合の賞与支払い届:
- 令和7年4月以降に支給された賞与について、人事院勧告などで遡って給与改定が行われ、その差額が後から支給された場合、以下のどちらかの対応が可能になります。
- 当初支給された賞与額に差額支給分を含めて、賞与支払い届の「訂正」として提出する(従来の方法)
- 差額支給分を、実際に支給された日に支払われた賞与として、新たに賞与支払い届を提出する(電子申請も可能)
- 令和7年4月以降に支給された賞与について、人事院勧告などで遡って給与改定が行われ、その差額が後から支給された場合、以下のどちらかの対応が可能になります。
今回の研修会では、社会保険に関する手続きの細かな注意点から、今後の制度改正の方向性まで、多岐にわたる重要な情報が提供されました。特に、電子申請の推進や特定適用事業所の拡大は、多くの事業所に影響を与える内容ですので、しっかりと理解しておくことが重要です。