新規事業開発フレームワーク【Fit Journey】
「フレームワーク・フィット・ジャーニー(Framework Fit Journey)」とは、
新規事業が「なんとなく良さそう」から「必要不可欠」になるまでの道のりを、
段階的な「フィットの達成」として整理したフレームワークです。実務者ベースで使われ始めた整理概念です。
これは、**「アイデア」→「仮説検証」→「PMF」→「スケール」**という成長ステップを、
5つの“◯◯ Fit”のフェーズに分けて捉え、各段階で何に注力すべきかを示しています。
フレームワーク・フィット・ジャーニー(5段階)
フェーズ | 達成すべき Fit | 主な目的 | 具体例(中小企業向け) |
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① | Problem-Solution Fit(課題-解決策の適合) | 顧客の「解決したい本音の課題」に対応しているかを確認 | 「高齢者施設向けのICT記録システム」を検討。現場でヒアリングしたら“操作が複雑で使いこなせない”が真の悩みと判明。シンプルUIに方針転換。 |
② | Solution-Product Fit(解決策-製品の適合) | アイデアを実装し、実際に使えるものに仕上げる | 試作アプリを作って施設職員にモニター利用してもらう。UI改善や音声入力機能などフィードバックを反映。 |
③ | Product-Market Fit(PMF)(製品-市場の適合) | 顧客が“これが欲しかった”と感じ、自発的に使い始める | 導入先の施設で“もうこれなしでは無理”という声が出始め、紹介で新規施設からの問い合わせが増加。 |
④ | Go-To-Market Fit(市場投入戦略の適合) | 販売・導入の方法が明確で、顧客を効率よく獲得できる | 地方の医療福祉展示会に出展。補助金活用も提案し、顧客の導入障壁を低くする営業戦略を確立。 |
⑤ | Growth Fit(成長拡大の適合) | 組織・資源・資金を拡大しつつ、顧客基盤を効率的に広げる | サポート体制を外部委託、パートナー企業と連携し全国展開へ。MAツールで見込み顧客を継続フォロー。 |
各フェーズでの重要ポイント
フェーズ | 成功のカギ | つまずきやすい落とし穴 |
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① Problem-Solution Fit | 顧客の「深層課題」まで掘ること | 自分の思い込みでアイデアを進めてしまう |
② Solution-Product Fit | フィードバックを素早く反映(試作→改善) | 完璧な製品を作ろうとして時間をかけすぎる |
③ PMF | 顧客が自発的に紹介するようになること | 無理に売り込んで数字だけ作るとズレる |
④ Go-To-Market Fit | 顧客獲得コスト(CAC)を意識した導線設計 | セールスやマーケが属人的すぎて再現できない |
⑤ Growth Fit | 組織やプロセスの「仕組み化」 | 社長だけが動いていて、成長のボトルネックに |
屋台からチェーン店へ
- Problem-Solution Fit:地元の商店街で「冷たいおしるこ」を屋台で出したら「これ、夏バテに効くね!」という声が出た(ニーズ発見)。
- Solution-Product Fit:試作して保冷効果の高い容器を導入。食べやすいようにスプーン付きに(形になる)。
- PMF:リピーター続出。「あの屋台、また来てる?」と聞かれるように(愛される製品)。
- Go-To-Market Fit:イベント出店、道の駅、冷凍販売開始。SNSでバズらせる仕組みも作る(売れる導線)。
- Growth Fit:他地域にフランチャイズ展開、物流も確保し、全国区へ(拡大可能な体制)。
中小企業での活用ポイント
- スモールスタートで顧客の声を聞く時間を惜しまない。
- **試作や実証実験(PoC)**を活用し、改善サイクルを高速回転させる。
- PMF達成前に営業・広報に全力投球しすぎない(無駄打ちになる)。
- PMF後は、営業プロセス・導入支援の“型化”が急務。
以下に、「フレームワーク・フィット・ジャーニー」5段階を具体例として5つ紹介します。
① 町工場の技術を活かした「廃材アクセサリー」事業
フェーズ | 実例 |
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Problem-Solution Fit | 若者が「SDGsに共感しながらも、ファッション性も欲しい」と考えていることを発見。町工場で出る真鍮の端材を再利用したアクセ案を検討。 |
Solution-Product Fit | 試作アクセをインスタに掲載。ターゲットの大学生にモニター配布し「重すぎる」「色味が可愛い」と改善ポイントを得る。 |
PMF | SNS経由で“廃材のストーリーが響いた”と購入が自然に発生し、クチコミで人気に。小規模ながら売上が安定。 |
Go-To-Market Fit | セレクトショップやポップアップ出店、ストーリーブック同封などでブランド体験を設計。 |
Growth Fit | 廃材提供元の町工場との業務提携。全国の工場に声掛けし、各地の“地場産品×エコ”ブランドに展開。 |
② 小規模美容室の「30分で終わるカット専門店」
フェーズ | 実例 |
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Problem-Solution Fit | 「カットだけでいい。時短で安く済ませたい」という共働き・子育て世帯の声をキャッチ。 |
Solution-Product Fit | 時間制でメニューを整理。予約制とLINE通知で待ち時間ゼロを試行。実際の利用者にテスト導入。 |
PMF | 口コミで「予約が取れない」と話題に。顧客がLINEで家族・友人を紹介し始める。 |
Go-To-Market Fit | シンプルなLPとチラシで商圏内に拡大展開。Googleマップの口コミ施策を仕掛ける。 |
Growth Fit | 他地域に2店舗展開、研修用動画とマニュアルを整備し、パートスタッフでも同質サービスを提供可能に。 |
③ 建設業向け「現場写真・日報自動化アプリ」
フェーズ | 実例 |
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Problem-Solution Fit | 「職人はスマホは使うが、報告書は後回しになる」ことを現場ヒアリングで確認。写真から自動で日報が作れるアプリ案を構想。 |
Solution-Product Fit | OCRや音声入力を用いた簡易プロトタイプを協力企業に試作依頼。フィードバックを即日反映。 |
PMF | 現場の親方が「これなら使える!」と推薦、他社からも導入希望が増え、リプレイス案件が増加。 |
Go-To-Market Fit | 建設業協会や施工管理団体向けに講習・導入支援を提供。補助金活用のパッケージ提案も開始。 |
Growth Fit | 建設業界特化のSaaSとしてパートナー代理店を拡大、料金体系もサブスク型へ移行しMRR成長へ。 |
④ 商店街の空き店舗を活用した「週替わりチャレンジショップ」
フェーズ | 実例 |
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Problem-Solution Fit | 若手起業家が「いきなり店舗は重いが、実地で試したい」と話すニーズを商工会議所ヒアリングで掴む。 |
Solution-Product Fit | 空き店舗を週単位で貸し出す実験プロジェクトを実施。SNSで出店者を募集し、実際に運用。 |
PMF | 出店希望者が多数に。「1週間出したら常連ができた」という声から、卒業後の物件紹介へつなぐ。 |
Go-To-Market Fit | 商店街・市役所・金融機関と連携し、開業パッケージ(店舗・助成金・税務サポート)を整備。 |
Growth Fit | 他市の商店街にもモデル展開。自治体単位での起業支援スキームとして採用される。 |
⑤ 個人経営カフェによる「サブスク朝ごはん」プラン
フェーズ | 実例 |
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Problem-Solution Fit | 朝食をとらないビジネスパーソンが「食べたいけど時間がない」と感じていることを常連客との会話から把握。 |
Solution-Product Fit | 月額3,000円で“朝だけ利用”できるサブスクをテスト導入。毎日メニューは固定で時間も3分以内。 |
PMF | リピーターが毎日通い、周囲に紹介し「健康意識が高まった」とSNSでも話題に。 |
Go-To-Market Fit | 地元企業と提携し、福利厚生メニューに。カフェ横に案内パネルも設置。 |
Growth Fit | 他のカフェへモデル移植。共通アプリで複数店舗を利用可能な地域連携型サブスクへ。 |