「IT導入補助金」採択結果等

1. 最新の採択結果

2025年10月31日に発表された第5次締切分の最新の採択結果は以下のとおりです。

申請枠申請者数採択者数採択率
通常枠2,9761,10337.1%
インボイス枠(インボイス対応類型)6,6703,16147.4%
セキュリティ対策推進枠1004848.0%

出典: 中小企業庁 2025年10月31日発表データより算出 注: 本補助金制度には後述の通り5つの申請枠が存在しますが、第5次締切の公式発表では上記3枠に関する詳細データが公表されています。

  • インボイス枠(インボイス対応類型)の圧倒的な優位性 申請者数、採択者数ともに他の枠を大きく引き離しており、インボイス制度への対応が依然として多くの中小企業にとって最優先課題であることが示されています。採択率も比較的高く、制度対応という明確な目的を持つIT投資が最も採択されやすい現状にあります。
  • 通常枠の競争環境 インボイス枠に次いで申請者数が多いものの、採択率は37.1%と他の枠に比べて低くなっています。これは、インボイス対応のような明確なコンプライアンス要件と異なり、業務効率化やDX推進といった広範な目的を持つため、投資対効果(ROI)を具体的に示す事業計画の説得力がより厳しく審査される結果と考えられます。競争が比較的激しい枠であると認識すべきです。
  • セキュリティ対策推進枠 申請件数は限定的ですが、採択率は約48%と最も高水準です。サイバー攻撃のリスクは定量的かつ具体的に示しやすく、脅威への明確な対策計画が審査で評価されやすいことが要因と推察されます。ランサムウェア攻撃などの脅威が増大する中、具体的なリスク対策を計画している企業は、本枠の活用を積極的に検討すべきです。

IT導入補助金の概要は以下の通りです。

2. IT導入補助金の目的と制度概要

IT導入補助金は、中小企業および小規模事業者が直面する多様な経営課題に対し、最適なITツールの導入を財政的に支援することで、業務効率化と収益向上を実現することを目的としています

補助の対象となる経費は以下のとおりです。

  • ソフトウェア購入費・サービス利用料: 業務効率化やデータ管理に資する各種ソフトウェア製品およびクラウドサービス(最大2年分の利用料など)
  • ハードウェア購入費: PC、タブレット、プリンター、スキャナーおよびそれらの複合機器(※インボイス枠(インボイス対応類型)等、特定の申請枠に限る)
  • 導入関連費用: 導入コンサルティング、導入設定・マニュアル作成、導入研修、保守サポートなど

本制度の最大の特徴は、申請者である中小企業が単独で手続きを進めるのではなく、事務局に登録された「IT導入支援事業者」とパートナーシップを組む必要がある点です。申請者はIT導入支援事業者からITツールの提案や導入支援、申請手続きのサポートを受け、共同で交付申請を行います。

3. 補助金制度の申請枠と対象ITツール

  • 通常枠
    • 目的: 汎用的な業務プロセスのデジタル化による生産性向上を支援します。
    • 対象ITツールの具体例: 業務改善システム、顧客管理(CRM)システム、決済ソフトなど、幅広い業務領域のソフトウェアが対象です。
    • 前述の通り、本枠は採択率が比較的低いため、申請にあたっては導入効果を定量的かつ具体的に示す事業計画が不可欠です。
  • インボイス枠(インボイス対応類型)
    • 目的: 2023年から開始されたインボイス制度への対応に特化した支援を行います。
    • 対象ITツールの具体例: 会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフトに加え、これらのソフトウェアの使用に不可欠なPC、タブレット、レジといったハードウェアの導入も補助対象となる点が大きな特徴です。
  • インボイス枠(電子取引類型)
    • 目的: 取引先との間でインボイスを電子データで授受する仕組みの導入を支援します。
    • 対象ITツールの具体例: 企業間の取引を効率化する電子取引対応の受発注システムなどが該当します。
  • セキュリティ対策推進枠
    • 目的: 高まるサイバー攻撃のリスクから企業を守るためのセキュリティ対策導入を支援します。
    • 対象ITツールの具体例: 不正アクセスやウイルス感染を防ぐためのネットワーク監視システムや、セキュリティ診断サービスなどが対象です。
  • 複数社連携IT導入枠
    • 目的: サプライチェーンを構成する複数の中小企業が連携してITを導入し、地域経済全体の生産性向上を図る取り組みを支援します。
    • 対象ITツールの具体例: 複数社間でデータを共有・連携させるためのシステムなどが想定されます。

4. 申請プロセスとIT導入支援事業者の役割

申請プロセスは以下の9つのステップで構成されています。

  1. 目的の明確化: 解決すべき経営課題とIT投資のゴールを定義する。
  2. 事前準備: 電子申請に必須の「gBizIDプライム」アカウントを取得し、情報セキュリティ対策に取り組む「SECURITY ACTION」を自己宣言する。
  3. パートナー選定: 課題解決に最適なITツールと、その導入を支援する「IT導入支援事業者」を選定する。
  4. 交付申請: IT導入支援事業者と共同で事業計画を作成し、申請マイページから提出する。
  5. 交付決定: 事務局による審査を経て、補助金の交付が決定される。
  6. ITツールの発注・契約・支払い: 交付決定後、正式にITツールの発注、契約、支払いを行う(※交付決定前の発注・支払いは補助対象外)。
  7. 事業実績報告: ITツールの導入と支払いを完了させ、その証憑とともに事業実績を報告する。
  8. 補助金額の確定: 実績報告の内容が審査され、最終的な補助金額が確定・承認される。
  9. 事業実施効果報告: 補助金受領後、一定期間にわたり導入したITツールによる生産性向上効果などを報告する。

この一連のプロセスにおいて、「IT導入支援事業者」の役割は極めて重要です。企業の課題ヒアリングから最適なITツールの選定、事業計画の策定支援、そして煩雑な申請手続きのサポートまでを一貫して担うパートナーです。事前の課題整理と信頼できるパートナーの選定が成功の鍵となります。

5. 自社IT戦略の構築に向けて

以下に、取り組むべき3つのステップを示します。

  1. 社内ITニーズの棚卸しと優先順位付け まず、全社的な視点で現在の経営課題を洗い出すことから始めます。例えば、「インボイス制度への対応遅延」「特定部署の反復的な手作業による非効率性」「サイバーセキュリティ対策の脆弱性」といった具体的な課題をリストアップし、事業インパクトの大きさと緊急度から優先順位を決定してください。
  2. 課題と補助金枠のマッピング 次に、優先順位の高い経営課題を、補助金枠と結びつけます。例えば、インボイス対応が最優先であれば「インボイス枠」、全社的な業務フロー改善を目指すなら「通常枠」、セキュリティリスクへの対応が急務であれば「セキュリティ対策推進枠」が最適な選択肢となります。
  3. IT導入支援事業者のリサーチと選定 申請の方向性が固まったら、自社のニーズに合致したITツールの導入実績が豊富で、かつ補助金申請のサポートに長けた「IT導入支援事業者」を選定してください。

IT導入補助金は、単なる一時的なコスト削減策ではありません。これは、企業のデジタルトランスフォーメーションを加速させ、市場における競争優位性を確立するための戦略的投資機会です。この戦略的投資機会を的確に捉え、競合他社に先んじてDXを加速させることが、今後の事業成長の鍵となります。速やかなアクションプランの実行を強く推奨いたします。